ブルーノート帝国への侵略/マッドリブ

   

ヒリヒリとした触感

マッドリブを知ったのは、かれこれ数年前のことになる。

アドリブのスペル「adlib」に「M」の一文字を加えたネーミングにセンスを感じ、また、ブルーノートっぽいアルバムジャケットにも魅了されて、このアルバムを手に取ったのが最初だ。

もっとも、レーベルはブルーノートだし、ジャケットの裏は、なぜか日本語で「はと」と書かれた壁の写真がレイアウトされていたりと、いまひとつジャケットアートのトーンのコントロールのコンセプトはよく分からなかったけれども。

このアルバムの何が良いかって、ざらざらした感触が、聴いているこちらのマインドをヒリヒリさせるところだ。

あ、スクラッチノイズがざらざらしているからじゃないよ。

音色ではなく、音から伝わってくる攻撃性のようなものというのかな。

ジャズに親しむ以前の高校時代からグランド・マスター・フラッシュやパブリック・エナミーなどのヒップホップに親しんでいた私からしてみれば(現在の定義でいえば、いわゆるオールド・スクールものというのかな?)、サウンドは違えど、マッドリブの音源から伝わってくる攻撃性や切迫感のようなものは、かつて聴いていた初期のヒップホップのヤバさに通ずるものがある。

しかし、よくよく考えてみると、私がいまだジャズを聴き続けている大きな理由は、ヒリヒリした感触や、どうしようもない切なさを求めているからということが大きい。

もちろん、ヒリヒリさや哀愁が希薄なジャズのほうが多いのだということはずいぶん前に知ったが、それでも時折、マインドをグサグサ刺してくるものもある。

また、ドルフィー、ミンガスの音楽や、初期のトリスターノ一派の一連の演奏、それにショーター加入以降のマイルスの音楽には、ヒップホップがもつヒリヒリさとは別種のヒリヒリさした感触が確実にあるため、今でも私が胸を張って「ジャズが好きなんです」と言えるのは、彼らの音が私の中の核で確実に脈打っているからだろう。

要するにヒリヒリした切ない音楽が好きなだけなのかもしれない。

まったり&ギザギザ《モンタラ》

私が最初に魅了されたのは《モンタラ》だ。

ご存知、ボビー・ハッチャーソンのアルバムに収録されているナンバーだが、この演奏が持つ心地よいまったり感に、ヒップホップ特有のザラザラ感が加味され(スクラッチノイズのザラザラ感ではなく)、さらにジャジーなエッジが加わっている。

夕陽をみながらたそがれたいメロディとテンポだが、最近は朝からこれをかけても全然一日の行動面やマインド面において支障がないことを発見して以来、わりと朝一発にコーヒーを飲みながら、これをかけていることも多い。

もちろん、ハッチャーソンの《モンタラ》の原曲も気持ちよいので、ぜひ聴いてみてください。

侵略?リスペクトじゃくて?

それにしても、日本盤はタイトルがよくないよね。

「ブルーノート帝国への侵略」。

このCDを店頭で邦題を見たときは、目を引いたことはたしかだが、聴いてみたら全然侵略していない。

挑発的な音に変換されてはいるけれども、過去の遺産への敬意が底流に流れているのは誰が聴いても明らかだろう。

そこにあるのは「敬愛」。
リスペクトなんだよ。

だから、原題の『シェイズ・オブ・ブルー』でいいじゃないと思ってしまう。

もっとも、ジャズ好きのジャズ耳で捉えると、ヒップホップ的なテイストを濃厚に感じるものの、守備範囲の中心部がヒップホップであるという人が聴けば、かなりジャズ的に聴こえるのかもしれない。

ドナルド・バード、ボビー・ハッチャーソン、ホレス・シルバー、ハービー・ハンコック等々。そうそうたる面子の音源が惜しげもなく使われていることもジャズ的と感じる所以なのかもしれないが、ジャンル云々の垣根はともかくとして、その時代に新しい試みがなされていた音源を俎上に載せ、さらに現代流、というよりも現代を生きるマッドリブの感性を重ねあわせた結果、両者の感性が拮抗し、スパークしたエネルギーが音に宿っているからこそ、ヒリヒリとした躍動感を常に感じることが出来るのだろう。

まさに「故きを温ねて……」というやつですね。

ヒップホップ好きからはオシャレでオトナな音源として評価されているようだが、むしろジャズファンにこそ耳を通して欲しい音源だ。

ヘタなジャズより、よっぽど濃厚にジャズを感じるから。

記:2018/09/02

album data

SHADES OF BLUE (Blue Note)
- Madlib

1. Slim's Return
2. Distant Land (Hip Hop Drum Mix)
3. Mystic Bounce
4. Stormy
5. Blue Note Interlude
6. Please Set Me At Ease
7. Funky Blue Note
8. Alfred Lion Interlude
9. Stepping Into Tomorrow (Madlib Remix) (2003 Digital Remaster)
10. Andrew Hill Break (Madlib Remix)
11. Montara (Madlib Remix) (2003 Digital Remaster)
12. Song For My Father
13. Footprints
14. Peace/Dolphin Dance
15. Outro

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