スロウ・ドラッグ/ドナルド・バード

   

イキそでイカない寸止め感覚

コテコテのソウルをジャケットから連想した人は、大ハズレ。

なかなか抑制の効いた知的なフィーリング溢れるジャズなのだ。

特に1曲目のタイトル曲の、イキそうでイカない寸止め感覚、爆発しそうな予感を漂わせながら、大きな爆発までいかない、だけれども、緊張感を維持させながら9分46秒を持たせる柔軟な音楽的体力、持久力には脱帽。

常に何かを暗示させ、次の瞬間、瞬間を聴き手に期待させるアレンジ。そして、それを裏付けるかのような重たいリズム。

リズムの粘りと腰の強さの勝利といえよう。

まさに、タイトルの《スロー・ドラッグ》は秀逸なネーミングだと思う。
じわじわ効いてくるんだよね、このマッタリさ加減。

漂う怪しさを演出する役どころとしてのソニー・レッドの起用は大正解。

彼のシャープなんだけど、どこか夢遊病者のようなプレイは、アレンジは大胆ながら、プレイ面では“バカ”になりきれないバードを脇から妖しく彩る。

また後半にかけ声のようなヴォーカルが挿入されるが、この声の主はなんとドラムのビリー・ヒギンズ。

リーダー、バードのプレイも、もちろん上出来だ。

ブリリアントで一直線なんだけれども、捻り加減も秀逸なドナルド・バードのトランペットの音色、プレイそのものも楽しめる内容となっている。

高域に濁りの無いバードのトランペットだが、そんな彼のプレイ面に焦点を当てるとすれば、特に《シークレット・ラヴ》や《マイ・アイディアル》が素晴らしい。

勢いにまかせず、かなり考えながら吹いていることがフレーズや間から伝わってくるが、だからこそ曲の持ち味が最大限に生かされるのだ。

名曲と評価の高い《ブックス・ボサ》も抑制の効いたアンサンブルが良し。

曲調やテンポからも、勢いに任せてドカーン!と行きたいところを、タメを効かせたアレンジで落ち着かせているところが、ミソ。なぜかというと、また聴きたくなるから。だから、しばらくの間、このアルバムばかり繰り返して聴いていた時期もあった。

仕事帰りにフラリと足を運びたくなるバーのような、そんな居心地の良さが、このアルバムには漂っているのだ。

記:2006/12/03

album data

SLOW DRAG (Blue Note)
- Donald Byrd

1.Slow Drag
2.Secret Love
3.Book's Bossa
4.Jelly Roll
5.The Loner
6.My Ideal

Donald Byrd (tp)
Sonny Red (as)
Ceder Walton (p)
Walter Booker (b)
Bily Higgins (ds,vo)

1967/05/12

 - ジャズ