もっとソニー・クリスを聴こう!パーカー分かりたければクリスを聴け!

      2021/01/31

いきなりパーカー、大丈夫?

モダンジャズの原型を形作った男、そして、その「語法」の中においての最高峰なのはチャーリー・パーカーであることは間違いない。

私もパーカーは大好きだし、日常的によく聴いているジャズマンの一人だ。

しかし、だからといって、初心者が「まずは敵の“本丸”を落としてしまえば、後はラクだろう」とばかりに、いきなりパーカーにチャレンジすると、大やけどをしかねない。

なぜかというと、多くのジャズ初心者は、今まで聞いてきた音楽の延長線上としてメロディアスなものを求めがちだから。

パーカーにももちろん歌心はあるし、メロディアスな演奏だってある。

しかし、そもそもパーカーらビバッパーが開発した「語法」というのは、極論すれば、そもそもは「鼻歌の拒絶」から始まっているところもあるわけで、パーカーやディジー・ガレスピーが吹くフレーズの多くは、メロディアスな「歌」の延長線上にあるものではなく、クールな眼差しで行われた楽理の分析と解体、再構築から生み出されたものだからだ。

だから、旋律だけを追いかければ、たとえば《ココ》や《ドナ・リー》を聴けばお分かりのとおり。メカニカルかつ安易な鼻歌チックでのほほんとしたメロディを否定しているところもあるパーカーをはじめとしたビ・バッパーたちの表現をいきなり分かれといっても無理がある。

もちろん、そのメカニカルでウネウネした旋律に、卓越した技量で躍動感を注入している張本人こそがパーカーなのだが、そのクールな眼差しにホットな脈動が一体化しているということを「分かる」には少々時間を要すると思う。

「パーカー派」アルティストを聴こう

だから、最初は「パーカーの子どもたち」、つまりはパーカー派と呼ばれる、パーカーの影響を受けた人たちの表現のほうが、分かりやすく親しみやすいため、いきなりパーカーを聴いてジャズ嫌いになるよりは、キャノンボール・アダレイやフィル・ウッズ、ジャッキー・マクリーンらのアルトサックスを聴いたほうが、一見遠回りにみえつつも、じつはパーカーに近づく近道である可能性が高いのだ。

アルトサックスの軽自動車

そして、忘れてはいけないパーカー派のアルティストといえば、ソニー・クリスだろう。

前掲したジャズマンたちよりは、いまひとつ知名度も人気もないように感じるが、なかなかどうして、個人的にはパーカーに近づく最短距離のアルトサックス奏者だとすら思っている。

たとえるなら、アルトサックスの軽自動車。

クリスは、聴いて満足、内容満足、で、腹八分目な満足感なアルト奏者だと思う。

もちろん、彼のプレイに非の打ち所はまったくない。

しかし、心の奥深くまでジーンと染みこむ要素や、こちらの感性をガツーン!とやっつけてくれるところまでには至らない。

でも、日常のすべての音がそーいう「ゲージツ色」が高いものばかりに覆われてしまうと、ちょっと気持ちがヘヴィに押しつぶされる可能性がある。

だから、クリス。

軽やかで聴きやすいソニー・クリス

吹いている内容、フレーズ自体は、パーカーのそれと酷似しているものが多い。
それなのに、どういうことか、本当に微妙なニュアンスやタイミングの違いで、クリスのほうが爽快で軽やか。
したがって聴きやすい。

クリスは、いうなれば軽妙で読後感のさわやかな優れたエッセイを読む感じで聴けるアルト奏者だ。

しかし、簡潔で、サラッと心に残るエッセイほど書くのはとても難しいんだよね。

クリスの一聴、平易に聴こえるアルトもそう。
サラッと腹八分目にわれわれに感じさせてくれること自体、彼は相当な熟練者なのだ。

しかし、受け手は、あくまでカジュアルな気分で、軽自動車を運転している気分でクリスを楽しめる。

そこがクリスの良いところ。

クリスのおすすめ盤

おすすめアルバムはたくさんあるのだが、個人的にはフレッシュサウンズの『ソニー・クリス・カルテット・フィーチャリング・ハンプトン・ホーズ』が最初に聴くにはおすすめだと思う。

Sonny Criss Quartet 1949-1957Sonny Criss Quartet 1949-1957

>>ソニー・クリス・カルテット・フィーチャリング・ハンプトン・ホーズ/ソニー・クリス

それと、『ジス・イズ・クリス』ね。

なんか、B級のR&B、あるいはマイナーなガレージバンドのジャケットのようだが、内容はとても良い。

ジス・イズ・クリス!+1This Is Criss

>>ジス・イズ・クリス/ソニー・クリス

おすすめ!

いきなりパーカーは難しいけれども、クリスから聴き始めたらジャズが楽しくなったという人もいるので、気軽にトライしてみよう。

記:2015/12/19

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