スター・ダスト/ライオネル・ハンプトン

      2022/10/27

時、場所を選ばない不朽の名演

もとより《スターダスト》は名曲だが、ライオネル・ハンプトンの手により、不朽の名演が生まれてしまった。

特に、後半のハンプトンのまるで打楽器を叩くかのようなヴァイブのソロが圧巻。後半の倍テンポで時おり唸り声を上げながらのプレイがエキサイティングで、息を呑む。

ヴァイブの澄んだ音色とアタックの強い打鍵音。正確なマレットさばきで力強く刻まれるヴァイブのアタック音が耳に心地よく、もっとやれ、もっと続いてくれ、終わらないでくれと思いながら耳が吸い寄せられているのは、きっと私だけではあるまい。

この演奏のもう一人の隠れた主役は、ベースのスラム・スチュアート。

ゾウのように、ゆったりと、のっし、のっしと大またで歩くように刻まれるリズムが頼もしい。

中盤のハミングをしながらアルコでメロディを取るベースソロは、ユーモラスで暖かみがあり、この演奏の中盤を心地よく彩っている。

かのタモリ氏に、「死ぬ前に一枚だけ聞くとしたらこのアルバム」と言わしめたほどの『スターダスト』。

たしかに、このアルバムの幸福なサウンドに包まれれば、安らかに昇天できるかもしれない。

幸福感に浸れる15分のジャムセッションは、誰もが、夢見心地な気分で聴けることだろう。

私も、飲んで終電を逃した後、タクシーで自宅に帰宅するときは、iPodにメモリーされているこの曲を時々聴く。

夜中の六本木は、終電が無くなっても、まるで夜10時のような街の賑わいと人混みだ。

21世紀、日本・東京の街の人々やビルの明かりを、タクシーの窓から見ることなしに見ながら、1947年、つまり昭和22年に録音された古い録音を聴いていると、不思議な郷愁に襲われると同時に、目に映った景色のすべてが幻にすら感じてしまうのは、酔いのせいか。

ラジオのジャズ番組でDJを担当していたジーン・ノーマンが企画した3回目の“ジャスト・ジャズ・コンサート”の模様を収録したのが本音源だ。

場所は、カリフォルニア州パサデナ、シヴィック・オーディトリアム。

もとよりスタイルや所属バンドの違う、意外な顔ぶれの意外な組み合わせから生まれるジャムセッションの面白さを追求した興行。演奏者が次から次へと変わり、ソロを披露してゆくジャムセッションゆえ、演奏が長尺化するのはいたし方の無いことだが、《スターダスト》に関しては、退屈する時間は一瞬たりともない。

ライオネル・ハンプトンの参加は、タイトル曲の1曲のみだが、この1曲の演奏だけでも十分なインパクト。

他の演奏は、「えーと、何入っていたんだっけ?」状態だが、たまに、《スター・ダスト》以外の演奏を聴くと、まるで『ミントン・ハウスのチャーリー・クリスチャン』と錯覚するようなテイストだ。

つまり、ビ・バップ臭さを感じられない管楽器たちのプレイと、バーニー・ケッセルのギターが、クリスチャンを彷彿とさせるからだ。

バーニー・ケッセルはチャーリー・クリスチャンを敬愛してやまなかったが、もろにクリスチャンの影響を受けているんだなと納得させられるギターだ。

ケッセルのファンも必聴だろう。

記:2006/10/06

album data

STAR DUST (Decca)
- Lionel Hampton

1.Star Dust
2.One O'clock Jump
3.The Man I Love
4.Oh,Lady Be Good

Lionel Hampton (vib) #1
Charlie Shavers (tp) #1,2,3,4
Willie Smith (as) #1,2,3,4
Corky Corcoran (ts) #1,2,3,4
Tommy Tadd (p) #1,2,3,4
Barney Kessel (g) #1,2,3,4
Slam Stewart (b) #1,2,3,4
Lee Young (ds) #1,2
Jackie Mills (ds) #3,4

1947/08/04

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