ザ・キャット/ジミー・スミス

   

豪華ブラスセクションとの共演

ジミー・スミスの定番アルバムとして、真っ先に挙げられることの多い代表アルバムがこれ、『ザ・キャット』だ。

例に漏れず、私も最初に買ったジミー・スミスのアルバムでもある。しかし、長らく馴染めなかった。

その理由、おそらくは、ゴージャスなホーンアレンジのほうばかりに耳が傾いていたからかもしれない。

だから、長い間『ザ・キャット』には手が伸びず、ブルーノート盤のジミー・スミスの諸作ばかり聴いていた。
いうまでもなく、ジミー・スミスを“発掘”し、すごいペースで録音を重ね、多くのアルバムを発表したのはブルーノート・レーベル。

私は、ブルーノートのジミー・スミス、それも初期の作品が長らく好きだった。

初期のアルバムは、ご存知のとおり、ジミー・スミスは、それこそ八面六臂の大活躍を繰り広げている。

オルガンを弾きまくる、弾きまくる。これでもかと弾きまくり、もはや誰にも止められないほどの勢いと、汗の飛び散るエキサイティングな演奏の連続だった。

こちらのほうが私の性に合っていた。
「もっと行け~、もっと弾け~っ!」ってね。

最小限の編成、オルガン+ギター+ドラムのトリオのサウンドも、ジミー・スミスが大活躍するためには最適なお膳立てだった。

オルガンをマスターする前は、バド・パウエルのようなピアノを弾いていたというジミー・スミス。たしかに、余人をよせつけないほどの圧倒的にドライブしまくるオルガンは、鬼気迫るパウエルの初期の演奏に相通ずるものがあるかもしれない。

引くジミーよりも、攻めるジミーのほうがイイ。
もっとオレをノせてくれ、そんな気分でブルーノートの諸作を聴いていたのだ。

しかし、同レーベルの『ホーム・クッキン』を聴いたあたりから、「引くジミーもいいじゃないか」と思い始めた。

このアルバムのギタリストは、ケニー・バレル。

艶やか、かつ上品にブルージーな感覚を醸し出す彼のギターが、良い意味での抑制効果となったのか、このアルバムでのジミーは弾きまくっていない。しかし、弾きまくっていない音の行間からは、なんともいえないアーシーさが漂ってくるのだ。

“引くジミー”に慣れると、『ザ・キャット』の世界にも馴染んでくる。

もちろん、『ホーム・クッキン』ほど引いてはいないが、ホーンセクションのブラスアレンジと程よい共存を見せるジミーのオルガンは、出るところでは出るし、引くところでは引いている。

ラロ・シフリンがアレンジを担当したブラスセクションは、役割分担を心得ており、凄まじい迫力で大いに盛り上げる箇所から、オルガンを優しくサポートするパートまで、緩急自在の演奏。

野生的なブラスアンサンブルのサウンドと、まるで昔のスパイ映画サントラのようにスリリングなアレンジは、慣れ親しんでくると、それはそれで悪くないと思うに至った今日この頃。
オルガンの演奏面のみならず、バックのアレンジをも楽しめるという贅沢なアルバムではある。

もっとも、ブラスセクションのアレンジは、かなりアクの強い味付けなので、好き嫌いが分かれるところだとは思うが……。

ちなみに、このアルバムにもケニー・バレルがギターで参加している。

前へ前へとガンガン突き進むジミーには、しっとりと手堅くフォローするバレルのギターのスタイルとの相性がいいことは、ブルーノートの諸作でも証明済み。ここでのバレルもキチンと自分を主張しつつも、ジミーのオルガンをしっかりとサポートすることを忘れてはいない。

ハイスピードでスリリングに展開される《セントルイス・ブルース》が個人的なお気に入り。

曲名を見るまでは、《セントルイス・ブルース》だとは気付かなかったほど、スピードアップと、いきなフェイクで演奏されている。

また、これもアップテンポの演奏《ベイズン・ストリート・ブルース》もスリリング。

アップテンポでスリリングに演奏するジミーのオルガンには、ワイルドでスリリングなアレンジのブラスセクションがよく似合う。

記:2006/12/12

album data

THE CAT (Verve)
- Jimmy Smith

1.Theme from "Joy House"
2.The Cat
3.Basin Street Blues
4.Main Title from "The Carpetbaggers"
5.Chicago Serenade
6.St. Louis Blues
7.Delon's Blues
8.Basin Street Blues
9.Main Title From "The Carpetbaggers"
10.Blues In The Night

Jimmy Smith (org)
Lalo Schifrin (arr,cond)
Ernie Royal,Bennie Glow,Marky Markowitz,Snooky Young,Thad Jones (tp)
Ray Alonge,Bil Correa (frh)
Billy Byers,Jimmy Cleveland,Urbie Green (tb)
Tonny Studd (btb)
Don Butterfield (tub)
Kenny Burrell (g)
George Duvivier (b)
Grady Tate (ds)
Phil Kraus (per)

1964/04/27&29

 - ジャズ