ジ・イン・ビトウィーン/ブッカー・アーヴィン

   


The In Between

脳が涎をたらすテナー

ブッカー・アーヴィンは、中毒性の高いテナーサックス奏者だ。

質実剛健、豪腕一直線。

小賢しい小技を効かせることを潔しとしない。

しかも、音そのものが真ックロけっけ。

彼のファンは、おそらくタフで黒く煤けたテナーがそこに鳴っているだけで脳の中でヨダレを垂らすのだ。

少なくとも私はそうだし、同じようなことを言っているテナー奏者に奄美大島「サウンズパル」の高良俊礼さんがいる。

ちょっと裏返ったようなテナーの音色。

ロングトーンのときに少しだけ捩れる音程。

棒を切ったように武骨なフレージング。

重量感溢れ、ちょっと尖ったアプローチの演奏が多いにもかかわらず、どこか漂う微妙なイナたさ。

そしてなぜか漂うニンニクの香り(笑)。

これらの微妙な要素が総合的に交じり合っているのが、アーヴィンの世界。

漢(おとこ)アーヴィンの世界だ。

コルトレーンほど鋭利ではなく、ゴードンほど鈍器でもない。

両者の良いところがブレンドされ、ほろ苦い甘さも加わる。

くわえてカッコ良すぎないところが、絶妙にカッコ良い。

例えるならば、レバニラ炒め。
あるいは餃子か?

人によっては牛丼かもしれないし、高菜や紅ショウガをたっぷりと盛ったトンコツラーメンかもしれない。

決して高級料理ではないが、時折、猛烈に食べたくなる食べ物。そして、廉価でちょっと匂う食べ物。

これらをガッツリ食べた後の満足感はなににも替えがたい。

値段も安く、そこから満たされる満足感、幸福感のコストパフォーマンスの高さは絶大なり。

アーヴィンの音楽は、まさにそう。

ああ、アーヴィンに思いを巡らしながら書いているうちに、本当にニラのたっぷりはいった餃子を食べたくなってしまったではないか。

餃子サックス。
あるいは、餃子テナー。

喩え悪いが、アーヴィンのニュアンスからは大きく外れてはいまい。

そういえば、昔、「甘太郎」という居酒屋に「餃子丼」なるメニューがあったが、これをかっこむ時の悦びはアーヴィンを聴いているときの悦びに近い。

それにしても最近の「甘太郎」のメニューからは「餃子丼」が消えて久しい。

重たい電子ボードで入力してオーダーを取るシステムにしないでも良いので、是非、「餃子丼」を復活させてください。

さて、そんなアーヴィンの力作、かつブルーノートにおいての初リーダー作とともに遺作ともなってしまったアルバムが『ジ・イン・ビトウィーン』だ。

これ、名盤。

傑作!

急速調のタイトル曲。

白熱するレニー・マクブラウンのドラミングに乗って、いつもより2割増しで闊達なアーヴィンは、水を得た魚のごとく力強いブローを繰り広げる。

まったりミドルテンポの《タイラ》や、スローテンポの《ラルゴ》もオススメ。

男アーヴィンの独り言を聴け。

トランペッター、リチャード・ウィリアムスが大活躍の《ザ・ミューズ》もカッコいい。風雲急を告げるトランペットに重なるようにぬ~っと出現するアーヴィンのソロのカッコいいこと、カッコいいこと。

味のあるテナー、無骨でタフなテナーはアーヴィン以外にもたくさんいる。

しかし、アーヴィンの味わいは他の同タイプのテナーには無いものがある。

是非、一人でも多くのアーヴィン中毒者が増えんことを。

記:2008/02/16

album data

THE IN BETWEEN (Blue Note)
- Booker Ervin

1.The In Between
2.The Muse
3.Mour
4.Sweet Pea
5.Largo
6.Tyra

Booker Ervin (ts)
Richard Williams (tp)
Bobby Few Jr. (p)
Cevera Jeffries Jr. (b)
Lenny McBrowne (ds)

1968/01/12

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