スリー・ウェイヴス/スティーヴ・キューン

      2021/02/26

一筋縄ではいかない理知的な音空間

入り組んだ幾何学図形を眺めているうちに陥る錯視効果。

これがスティーヴ・キューン・トリオを聴き続けているうちに陥る感覚だ。

決して流暢ではないフレージング。

言いたいことをサラリと言い流すのではなく、むしろその反対で、大切なことは何度も確認をとる作業をとりながら、前進しながらも、一歩後戻りをしながらフレーズを組み立ててゆく構築的なピアノ。

さらに、意図的に突んのめるような、独特なリズムのアーティキュレーションが加わるため、過去に以前聴いたはずのフレーズが幻聴のように頭の中で反復を繰り返す。

理知的なムードに支配された音空間を形成する一翼を担っている一人は、スティーヴ・スワロウのベースだ。

一聴、大人しくネコをかぶっているかのようだが、その実、なかなかシタタカなベースで、キューンを危ない道へと誘導する手腕。

さらに、わかっていながらも何食わぬ顔でシンバルを叩くピート・ラロカも立派な共犯者。そういうキューンも騙されたフリをして、あえて彼らのタクラミに乗ってあげている。

そんな知能犯たちが作り上げる音世界は、少なくとも甘いムードには浸れないかもしれないが、思索的で充実したひとときを味わえる、ちょっと偏屈ながらも味のあるピアノトリオだ。

センスの良い粋な大人たちによる、一筋縄ではいかない、ちょっとビターでスイートなピアノトリオをどうぞ。

記:2005/12/20

album data

THREE WAVES (Contact)
- Steve Kuhn

1.Ida Lupino
2.Ah-Moore
3.Today I Am A Man
4.Memory
5.Why Did I Choose You?
6.Three Waves
7.Never Let Me Go
8.Bits And Pieces
9.Kodpiece

Steve Kuhn (p)
Steve Swallow (b)
Pete La Roca (ds)

1966年

 - ジャズ