カフェモンマルトル

text:高野雲

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「模造された男」のキングジョー

      2016/03/22

『ジュラシック・パーク』の恐竜にしろ、図鑑で描かれる恐竜にしろ、特にティラノサウルスや、アロサウルスのような肉食恐竜の表情は、どう猛で凶暴そうな表情に描かれている。

怒ったように恐ろしい目つきに、ガーッと大きく威嚇するように牙を丸出しにしている口。

いかにも怖そうで、おとなしい草食恐竜なんかは、彼らの手にかかれば、ひとたまりもないだろうなぁ、という印象を植え付けるには充分すぎる描写だ。

しかし、その描写はウソだと思う。

恐竜はヘビと同じ爬虫類だ。

その爬虫類の恐竜が、恐ろしい表情を形作る「表情筋」を持っていたとは考えにくい。

ほ乳類だって表情筋の発達した動物は、よっぽど進化した動物にならないと持っていないのだ。

恐らく、ティラノサウルスは、ヘビのように丸くてキョトンとした目をクリクリさせながら「かぷっ」とプロントサウルスに噛みついていたに違いない。

私は、その光景のほうが恐ろしいと思うのだが。

どう猛な表情のティラノサウルスが、ブロントサウルスに襲いかかっている絵は、ライオンがシマウマに襲いかかっている光景のように、分かりやすいし、「温度」というか「熱さ」のようなものが伝わってくる。

ところが、ヘビのように無表情で空虚な目を持った恐竜同士の格闘シーンって、なかなか熱さのようなものが感じられないし、なんだか容赦の無い「冷たさ」のようなものを感じてしまう。

たまらなく静かで、黙々と。生き延びるための作業を淡々とこなしているといった感じ。

感情のようなものが全く介在しない世界。「作業」というニュアンスのほうが近いのかもしれない。

まぁ、このような光景は、あくまで私の想像の上での話だけど。

ウルトラセブンに登場する「宇宙最強のロボット」と称されるキングジョーにも似たようなニュアンスを感じてしまう。

キングジョーのルックスには、そのどう猛さを連想されるものはカケラも感じられない。

ちょっと宇宙飛行士を連想させる、素っ気ないフォルムのロボットだ。

ゴジラの尻尾や、ゼットンの角のように「強さを象徴する装飾物」は存在しない。

そして、ポイントは、目。

正確には目ではないのかもしれない。

2つのビームを発射するだけの単なる「穴」なのかもしれない。

しかし、このまん丸い「目に値する場所」にあるビーム発射口が、私の想像上の恐竜の目のようにキョトンと空虚に無表情なのだ。

これは怖い。

可愛らしいぐらいに小さく無表情な目のまま、キングジョーは、冷酷に、淡々と破壊活動を続ける。しかも、滅法強い。

ウルトラセブンの攻撃の一切を受け付けないのだから。

昭和のウルトラセブンは、ウルトラ警備隊が開発した特殊兵器の力を借りてようやく倒すことに成功するが(「ウルトラ警備隊、西へ」)、私が好きなのは、むしろ平成になってからの戦いだ(「模造された男」)。

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そう、30年ぶりのリターン・マッチ。

キングジョー、もとはといえば、ペダン星人が地球に送り込んできた侵略ロボットなのだが、地球人の手によって再び蘇ったキングジョーは、かつての宿敵ウルトラセブンと30年ぶりの因縁の対決を再び繰り広げる。

そして、このリターンマッチは、何度見ても静かで不気味でスリリングだ。

かつての苦戦が頭によぎるのだろう。変身直後にキングジョーに体当たりをして地面に叩き伏せるセブンだが、すぐにキングジョーとの間に微妙な距離を置き、間合いを慎重に測る。数秒間、セブンとキングジョーとの間に奇妙で静かな沈黙の時間が流れる。

セブンの頭の中には、キングジョーとの闘いで苦戦した忌まわしい過去がよぎっていたに違いない。

しかし、そんなセブンの心情などおかまいなしに、「バッ・バッ」と不気味な発信音を規則的に繰り返し、容赦なく間合いをつめてくるキングジョー。

ロボットで、感情など持ちようはずもないキングジョーにとって、30年分の積年の思いなどは皆無なのだ。

セブンなど単なる邪魔な障害物にすぎない。邪魔だから排除する。破壊する。それだけだ。

シンプルな原則にしたがって、30年前と同様、圧倒的なパワーでセブンを苦しめるキングジョー。

苦戦するセブンの様子を捉えるカメラワークが粋だ。

キングジョーに蹴りやパンチを繰り出しても、ことごとく跳ね返されてしまう様が、地面の貯水場に映し出されているのだ。

しばらく水面にセブンとキング・ジョーの格闘シーンが映し出される。

セブンがキングジョーにはじき飛ばされ、貯水場近くの地面に頭から激突して、水面に映し出されていた景色が歪んだところで、再びカメラが実体のほうにパンをするという、なかなかに凝ったカメラワークだと思う。

明らかに昭和の「ウルトラ警備隊西へ」のオマージュではあるが、こちらのほうが、よりスリリングな映像となっている。

相も変わらす、規則的に「バッ・バッ」という不気味な発信音を繰り返すキングジョー。

奇妙に静かな戦いだ。セブンの闘いっぷりは熱いのだが、漂う雰囲気は「死」を匂わす静けさだ。

辛うじて、キングジョーの右臑にエメリウム光線を命中させることに成功したセブン。

キングジョーが撃たれた足に気を取られている間に、隙が出来た。

間髪を入れずに、今度はキングジョーの全身に向けてワイド・ショットを放つセブンだが、キングジョーは、猛烈なスピードで4体の飛行形態のパーツに分離をしてセブンのワイド・ショットをかわしてしまう。

分離したキングジョーは、凄まじいスピードで中空に舞い上がり、目にも止まらぬ速度でセブンの背後で元のロボット形態に合体する(この一瞬のシーンのCG描写が見事!)。

と、同時に、セブンの頭部に強烈なパンチをお見舞いし、セブンの頭からオレンジ色の火花が痛々しく飛び散る……。

最終的には、アイスラッガーを何度も何度も胸部の同じ場所に集中的に投げつけて、キング・ジョーはセブンに敗れるのだが、セブンのアイスラッガーもポロリと刃こぼれしてしまうというオチがつく。

キングジョーとセブンの戦いを簡単に文章にしてみると、だいたいこんな感じだが、文字だけでは、この戦いのシーンのスリルや、不気味さや、奇妙な静けさは殆ど伝えきれなかったと思う。

しかし、私の好きな戦闘シーンのベストに入ることは間違いない(ちなみに、もう一つ好きな闘いのシーンを挙げると、カメラがひたすら右へ右へとパンをしてゆく、帰ってきたウルトラマンとムルチによる、どしゃ降りの雨の中での格闘シーン。ウルトラマンのやり場の無い怒りと悲しみが、あの闘い方と、カメラワークで非常に上手く描かれていたと思う)。

考え抜かれたカメラワークと、優れたCG処理。

過不足なくキングジョーの強さ、怖さ、不気味さを伝えきった闘いの運び方。

これらが、熱くて静かなテンションをうまく受け手に伝えていると思う。

ゴジラのように、ギャオーと咆吼することもなく、ただひたすら、淡々と強いキングジョーを見ていると、私の思い描く太古の肉食恐竜の姿とイメージがオーバーラップしてしまうのだ。

記:2001/09/04


 

追記

『平成版ウルトラセブン・模造された男』は、レンタルビデオ屋から借りて観たのだが、セブンとキングジョーとの格闘シーンが強く印象に残っていたので、結局DVDを買ってしまった。

これで、いつでも観たいときに観れるぞ。わーい。

ちなみに、キングジョーの名前は、脚本家・金城哲男の名字をもじってネーミングされたものなのだそうだ。

記:2001/10/13

追記2

そういえば、「キングジョーvsセブン」、「帰マンvsムルチ」とともに、もう一つ大好きな戦いのシーンを書き忘れていた。

「ギャンゴvsウルトラマン」ね。

これ最高。

こちらは、シリアスなキングジョーとの戦いとは対極で、コミカルもいいところ。

まるで、子ども同士の喧嘩のようで、何回見ても笑ってしまう。

記:2016/03/22

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