トランキリティ/リー・コニッツ

   

暖かみを感じられるピアノレス・カルテット

寛ぎとテンションの微妙なバランス。

寛ぎの要素はビリー・バウワーのギター。
和声の面はバウワーに任せ、ピアノを抜いたピアノレス・カルテットというフォーマット。

演奏におけるテンションは、コニッツの音色とプレイそのものだ。

淡々とクールでありながらも、どこか暖かみも感じられる。

抑制アルトに華やぎリズム

ベニー・グッドマンの愛想曲で知られる《メモリーズ・オブ・ユー》を聴くといい。

こんなに慎重に、慎重に吹かれてしまうと、こちらも、おもわずかしこまって襟を正してしまう。

どちらかというと、ベース、ギター、ドラムスのリズムセクションのほうが、この曲を楽しげに歌っているかのようにすら感じる。

この主客転倒したようなギャップが面白い。

ただし、コニッツの音色、プレイが緊張感があるとはいえ、《サブコンシャス・リー》のときのような研ぎ澄まされた刃物のような鋭さはなく、肩の力が若干抜けたような余裕が感じられる。

選曲の妙もあるのだろうが、フレーズもいくぶんか平易になってバリバリにトリスターノ色に染まっていた頃の演奏と比較すれば聴きやすいといえば、聴きやすい。

しかし、音色、間の取り方が、やはり雑談しながら聴く類のものではなく、やはりアルトの音に耳がどうしても吸い込まれ、いつのまにか、1つ1つの音を耳で追いかけてしまうのは、やはり彼の音の存在感の強さもあり、さらには、努めてフラットに吹こうとする彼独特のアーティキュレーション(抑揚)が禁欲的な色彩を助長し、バックがギタートリオという比較的ウォーム&リラックスしたリズムセクションであるにも関わらず、BGMにはなりえないピリッとしたスパイスが全体にいきわたっているのは、やはりコニッツ特有の「快楽過ぎちゃまずいぜ」的な独特の美意識が隅々までにいきわたっているからだろう。

tranquility=静けさ

もちろんスタティックで抑制された美意識も感じるが、それだけではない内なる躍動感も感じる。

ピリリと辛味の効いたコニッツと、それをあたかもスポンジのように吸収する柔らかなリズムセクションとのバランスが見事な均衡を保った名盤だと思う。

記:2006/11/15

album data

TRANQUILITY
- Lee Konitz

1.Stephanie
2.Memories of You
3.People Will Say We're in Love
4.When You're Smiling
5.Sunday
6.Lennie Bird
7.The Nearness of You
8.Jonquil

Lee Konitz (as)
Billy Bauer (g)
Henry Grimes (b)
Dave Bailey (ds)

1957/10/22

 - ジャズ