稚拙さがかえって味わいを深めているトゥルーディ・ピッツのオルガン

   

稚拙さがツボ

女流オルガン奏者、兼シンガーでもあるトゥルーディ・ピッツの初リーダーアルバムは、パット・マルティーノ参加の隠れた和み盤だ。

題して『イントロデューシング・ザ・ファビュラス・トゥルーディ・ピッツ』。

カタカナで書くと長い……。

私は、ドアーズのオルガン奏者、レイ・マンザレクの決して巧いとはいえない、ひょこひょことした味のあるオルガンが結構好きなんだけども、トゥルーディのオルガンにも、それに近いテイストを感じる。

もちろん、マンザレクのオルガンとはノリもプレイ内容も違うが、言い方悪いが、ちょっと稚拙で舌足らずっぽいオルガンのプレイが、逆にいい味を出している。

だからツボにはまるのかもしれない。

オルガンの特性

オルガンは同じ鍵盤楽器でも、ピアノよりも味の出しやすい楽器なのかもしれない。

もちろん、フットペダルでベースラインを踏み続けなければいけないというピアノとは違った難しさはあるにせよ、こと右手と左手に関していえば、「タッチ」に気を遣う必要があまりないからだ。

つまり、いったん音色を確定させてしまえば、あとは、強く弾こうが弱く弾こうが音色は変わらず、ピアノと違って音色の微妙なニュアンスに気を遣う必要がない。

しかも、音色作りの段階で音色のほか、音の減衰する時間もコントロール出来るので、しょわ~と鍵盤押しっぱなしのプレイでもそれなりの味わいを出すことが出来る。

音の粒も打鍵のタイミングや強さ、速さによって微妙に倍音が変化するピアノに比べると、オルガンはどういうニュアンスで弾こうが出てくる音は一緒。
しかも鍵盤が軽い。

だから、慣れてしまえば、それなりの味はたとえプレイ内容が若干稚拙であっても、それなりに聞ける内容になりやすい。

トゥルーディのオルガンがまさにそうで、彼女は決してテクニシャンというわけではない。

むしろ、舌足らずな面もあり、決して流暢、滑らかにフレーズが繰り広げられるというわけでもない。

音の長さも不揃いで、ときどき危なっかしい場面にも遭遇する。

もし、これがピアノだったら、目も当てられない結果になっていただろう。

しかし、いいんですねぇ、オルガンだと。

この演奏上の稚拙さがかえっていい味に転化されている節もあるのだから面白い。

フレーズのちょっとしたモタりや、粒の揃わなさがかえって、「場末感」を増大させ、なんともいえぬ愛すべきB級テイストをぷんぷんと醸し出している。

パット・マルティーノが参加

トゥルーディ・ピッツは、オルガンを始める前はクラシック一辺倒だったそうで、このアルバムにも参加しているドラマーのビル・カーネイの強い薦めでオルガンに転向したという。

苦労しながらも短期間でオルガンの操作とジャズっぽいフィーリングを身に付けたそうで、この初リーダー作もオルガン歴の少ない段階での吹き込みのようだ。

したがって、微妙な危なっかしさがいたるところで認められるのはある意味仕方のないことなのかもしれないが、ただ単に危なっかしさだけではなく、キチンとその危なっかしさを味に転化させているところはサスガ。

「転んでもタダでは起きない」というよりは、これはオルガンという楽器の特性なのだろう。

さらには、パット・マルティーノの骨太のしっかりとしたプレイに支えられていることも大きい。

トルーディがヴォーカルを披露しているナンバーもあり、いずれにしても、なかなか楽しめるアルバムなことには違いない。

ジャケット上に右から左に青い文字でこれでもか!と羅列されている「STEREO・SEREO・STEREO・SEREO・STEREO・SEREO・STEREO・SEREO・STEREO・SEREO・」
の文字が泣かせる(笑)。

album data

INTRODUCING THE FABULOUS TRUDY PITTS (Prestige)
- Trudy Pitts

1.Steppin' in Minor
2.The Spanish Flea
3.Music to Watch Girls By
4.Something Wonderful
5.Take Five
6.It Was a Very Good Year
7.Siete
8.Night Song
10.Matchmaker, Matchmaker

1967/02/15 & 21

Trudy Pitts (org,vo)
Pat Martino (g)
Bill Carney (ds)
Carmell Johnson (conga)

 - ジャズ