トウェンティ・ワン/ジェリ・アレン

   

アレンがこんなに聴きやすくていいの?!

聴きやすいジェリ・アレン。
わかりやすいジェリ・アレン。

個人的にはジェリ・アレンは思索的で重たいピアノを弾くピアニストだと思い続けていた。
「明」か「暗」かという極端な二分法でいけば、まぎれもなく「暗」のピアニスト(だと思い込んでいた)。

しかし、この『トウェンティ・ワン』が発売された時に初めて聴いたときに、その思いは綺麗に払しょくされ、私が抱いていた「ジェリ観」は鮮やかに塗り替えられた。

聴きやすい。
分かり易い。

予想以上にブライトなピアノのタッチ。
そしてそのタッチで疾走するスピード感。
パーッと目の前の視界が明るく拓けてゆく感じ。

一瞬、これって本当にジェリ・アレン?という思いが頭をもたげたことはいうまでもない。

トニー効果

スピード感に拍車をかけているのは、トニー・ウィリアムスのドラミングだ。
ちなみに、ベースはロン・カーター。

「グレート・ジャズ・トリオ」のピアニストがハンク・ジョーンズからジェリ・アレンに代わった編成ともいえる。

トニーにとってロン・カーターは、マイルス・デイヴィス・クインテット以来の気心知れた「伴走者」ゆえ、遠慮なしにバシャバシャとドラムを叩けたのだろう。

ベテランかつ大先輩のハンク・ジョーンズを相手に叩いていた時の遠慮のようなものも感じられず、後輩のピアニストを先輩としてビシバシ教育してやろうという意気込みすら感じる。

このように勢いよく叩きまくるトニーに触発されたのか、ジェリのピアノはいつになく前へ前へと突き進んでゆく。
まるで、内気な性格の生徒が、エネルギッシュなコーチに煽られて内向的な性格の殻を突き破るかの如く。

よって、「こんなに元気で良いの?!」ってぐらいの勢いをジェリのピアノからは感じることが出来る。

スタンダードナンバー多し

もちろん、前へ前へと突き進む「陽」のアルバムを作りたいというようなプロデューサーの意向もあったのだろう。
選曲も《イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー》や《二人でお茶を》、《オールド・フォークス》など、ジャズファンにとってはお馴染みのスタンダードが多いのもこのアルバムの親しみやすさに拍車をかけている。

ジェリのことだから、さぞかしスタンダードといっても一筋縄ではゆかない凝った料理を施してくれるのかと思いきや、ジェリ特有の気難しさや内側へ沈降してゆくようなニュアンスは感じられず、こんなに開けっ広げでいいの?というぐらいストレートな演奏を繰り広げている。

ドラムだけでも聴けてしまう

このアルバム全体に感じられる明るい解放感の立役者はトニーであることは先述したとおりだが、本当に、このアルバムのトニーは素晴らしい。
トニーのドラミングだけでも聴けてしまうといっても過言ではないほどなのだ。

マイルス・デイヴィス時代の「少年トニー」は、細かなシンバルの刻みと、猛烈なスピード感で我々を圧倒してくれたが、年を経るにしたがって、彼のドラミングは、シャープさに加え、ワイドなレンジを獲得してきている。

若かりし日のトニーのドラミングは、マイルスの『フォア・アンド・モア』の《ソー・ホワット》や『マイルス・イン・ベルリン』の《マイルストーンズ》をお聴きいただければお分かりのとおり、細かな刻みの累積で演奏を構築していた。

しかし、彼のリーダー作『フォーリン・イントリーグ』あたり、つまり40歳を超えたあたりからの彼のドラミングは、作曲や編曲を学んだ効果もあってか、曲を全体的に大きく捉える目線も養ってきたのだろう。演奏が行き着く最終地点までを見据えたかのように、大きく音楽をとらえたダイナミクスのレンジが長く、演奏全体を包むようなドラムを叩くように変化してきている。

と同時に、シンバルとバスドラの口径が広くなっていることもあり、シャープではありながらも細やかな神経質さも感じられていたマイルス時代、あるいは新主流派時代のドラミングに比べると、ずいぶとスケール大きく大らかなものに変化してきている。

もちろん、バスドラへのキックの素早い連打が随所に現れたり、細分化されたシンバルの刻みは健在ではあるが、バスドラの「ドム!」と鳴り響く低音のインパクトは、口径が広くなったぶん、以前にもまして腹にズドン!とくるようになった。
ま、マイルス時代のバスドラの口径が小さかったということもあるけれど。まるで、もうひとつのロータムのような大きさと音だったからね。

このように音楽的スケールの広がりを見せている亡くなる3年まえのトニーのドラミングを楽しめるアルバムでもあるのだ。

ドラミングの溌剌さ、手数の多さを楽しめるピアノトリオという点では、もしかしたらグレート・ジャズ・トリオ以上かもしれない。

ラスト曲がアレンの本音?

もちろん思索的で重たく、少々難解な要素も含んだジェリ・アレンのピアノを楽しみたい私のような「重たいアレン好き」は、ラストの《イン・ザ・ミドル》を聴けばよろしいかと。

この曲は、ドラムとベースが抜け、ジェリ・アレンのピアノソロだが、このあたりが、アレン本来の持ち味であり、アレンの本音なのかもしれない。

エッジ鋭くダークなニュアンスを含んだ初期の彼女のピアノを彷彿とさせ、デビュー当時の尖ったアレン好きにとっては、妙に安心してしまう演奏なのだ。
5回連続で聴き続けた日もあるほど。

このナンバーと私が個人的に好きなのは、モンク作曲の《イントロスペクション》だ。
元よりモンクらしさ全開の曲を、ジェリはモンクの音楽が本質的に持っている「明るい解放感」をさらに増長させたかのような演奏を展開している。

この演奏も1日に5回連続聴きした日もあるが、まったく飽きることなく楽しめた。

記:2017/01/02

album data

TWENTY ONE (Blue Note)
- Geri Allen

1.RTG
2.If I Should Lose You
3.Drummer's Song
4.Introspection
5.A Beautiful Friendship
6.In the Morning
7.Tea for Two
8.Lullaby of the Leaves
9.Feed the Fire
10.Old Folks
11.A Place of Power
12.In the Middle

Geri Allen (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)

1994/03/23 &24

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