男の「優しさ」男女の「切なさ」。映画『ヴァイブレータ』の感想

      2021/02/12

何の気なしにみたけれども、これはかなり良い。

移ろいやすい不安定なオンナを演じる寺島忍も良いが大森南朋の演技力、というよりも、彼が演じるオトコの優しさが良い。

たしかに中学もろくに卒業しておらず、トラックの運転手になる前までは、けっこう「あっちの世界」のヤバい稼業も経験してきたヤクザなヤツかもしれないが、根っこの部分には拭い難い優しさを持っているという設定なのだろう。

劇中でも「本能で優しい」というくだりがあるが、まさにそのとおり。

一方、彼のトラックに同乗する寺島忍は、孤独を背負い、おまけに人間不信。くわえてアルコール依存症。気まぐれで移ろいやすい性格。
ひとこと「面倒くさいオンナ」だ。

しかし、そんな面倒くさいオンナのワガママをぜーんぶ受け止め、それを包んで余りあるほどの優しさでくるむだけの懐の広さを持ち合わせており、この容量っていうのは、きっと学歴とか、努力とか、育ってきた環境云々はほとんど無関係で、生まれた瞬間から決まっているのではないかと思う。

私が好きな作品に片岡義男の『人生は野菜スープ』という作品があるが、まさにこの物語の主人公に通じる優しさだ。

そして『野菜スープ』と共通しているのは、そこはかとなく漂う切なさのようなものだ。
決して説明的な押し売りではなく自然に醸し出している『ヴァイブレータ』は、それだけでも観る価値があるというものだ。

『野菜スープ』のシローも、『ヴァイブレータ』の大森南朋も、とにかく優しい。
一見ぶっきらぼうでいながらも、オンナのわがままをブラックホールのようにすべて吸収してしまう包容力がある。

きっと女性はこういうオトコに弱いんだろうな。
猫なで声の優しさではなく、奴隷のような御用聞き的な優しさでもなく、俺についてこい的な男らしさでもなく。

強引に数字を出してみる。

1日の喋る文字数で換算すると、男は1日7000ワード、女は2万ワード以上話さないとストレスを溜め込むという。
その差3倍。
ワード数の差は1万3000。

この違いと差を無意識に受け止めることが出来る、イコール、器の大きさだったり、包容力の有無だったりするのだろう。

これ、観終わったら、もう一度、最初の10分ほどを再び観なおしてみるといいよ。
明らかに最初と最後では寺島しのぶの顔つきが違うから。

場所は同じコンビニ。

しかし、数日後の寺島しのぶの表情、佇まいからは、明らかに「憑き物」が落ちている。

トラック、ロードムーヴィというと男くさい映画に感じるかもしれないが、むしろ逆。全国の大人の女性に観てほしい映画だと思いましたね。

しかし、大森南朋の優しさを味わってしまうと、今の彼氏や旦那さんでは物足りなくなってしまうかもしれないね。

記:2018/01/11

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