ウォーン・マーシュ/ウォーン・マーシュ

   

アート・ペッパーのワンホーン盤とは違う

CDの帯には、「マイルスのリズムセクション参加」とうたわれており、またワンホーンのリーダー作ということからも、アート・ペッパーの『ミーツ・ザ・リズムセクション』のような内容を期待する人もいるかもしれない。ルックスも、ペッパーもマーシュも同系統のイケメンだしね。

>>アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション/アート・ペッパー

しかし、『ミーツ・ザ・リズムセクション』を思い浮かべて聴き始めると、ちょっと肩透かしを食らうかもしれない。

アルバム全体にわたって、演奏が素っ気無いというか、消化不良感が残るからだ。

「消化不良感」の要因

実際のところ、たしかにマイルスのリズムセクションが参加していることは事実ではあるが、ここでいう「リズムセクション」とは、ピアノとベースの2人を指す。
当時のマイルスのリズムセクションの一員であったピアニスト、レッド・ガーランドは含まれておらず、ベースのポール・チェンバースとドラムスのフィリー・ジョー・ジョーンズのことを指すのだが、チェンバースは全曲参加していることに対し、フィリー・ジョーは2曲しか参加していない。

もちろん、フィリー・ジョー以外にドラムを叩いているポール・モチアンのドラミングが悪いというわけではないのだが、このアルバム全体につきまとう「消化不良感」は、別なところにあるといえるだろう。

アルバムの最初の曲が、そのアルバム全体のムードを決定することは多いのだが、この『ウォーン・マーシュ』の場合、冒頭の《トゥー・クロース・フォー・コンフォート》の演奏がいまひとつ乗り切れないまま、消化不良な感じでフェードアウトしてしまうところが大きな理由なのかもしれない。

もちろん、マーシュのテナーには含蓄の富んだプレイが少なくはないのだが、リー・コニッツの『サブコンシャス・リー』で聞かせてくれた音は暖かいのだけれどもシャープなフレーズを連発するマーシュを期待して聞くと、かなり異質なものを感じてしまう。

もちろん、レニー・トリスターノの門下生であったマーシュのこと、彼なりのロジックと美学に則った上で考え吹いている様子で、じっくりと耳を傾けると含蓄に富んだフレーズも飛び出してくる。
しかし、どこか素っ気無く、いわゆる「華」というものがほとんど感じられないのだ。

そこのところがマーシュの良いところでもあり、逆にマーシュの個性をつかみきれていない人からしてみれば「素っ気無い」「あまりメロディアスではない」と感じるところなのだろうし、そこがこのアルバム全体に感じられる「消化不良感」なのかもしれない。

ストイックなテナー奏者

熱心なトリスターノ信者は皆、一様に、コニッツよりもマーシュのほうが、ある意味「トリスターノ直系」だと主張しているが、このワンホーンのリーダー作を聴けば、なるほどと頷ける。

コニッツの場合は、ある時期からトリスターノの重力圏から離れ、メロディアスなアドリブを構築するプレイに少しずつ移行していったが、マーシュの場合は頑なに師匠のアプローチを守り通した。

ストイックな人なのだ。

もちろん年代によって、少しずつスタイルは変化してはいるものの(1965年の『リー・コニッツ・ウィズ・ウォーン・マーシュ』などが顕著)、マーシュが繰り出すコードやハーモニーを解析しながら同時に再構築を繰り返すかのようなアドリブのメロディは、少なくとも鼻歌で歌いやすいものとはいえず、そのあたりが、とっつきにくさを感じさせる要因なのだろう。

本当は凄い人なのに、なかなかその凄さがダイレクトに伝わりづらい、、ある意味損な人なのかもしれない。

チェンバースのベース

しかし、マーシュのプレイにとっつきにくさを覚えつつも、このアルバムにはマーシュのテナー以外にも聴き所はある。

チェンバースのベースだ。

ポール・チェンバースのベース好きからしてみると、比較的大きめなバランスで録音されているベース音がとてもおいしい。

しかも、ピアノのロニー・ボールが参加している曲は2曲のみなので、残りのナンバーは、ピアノレストリオ。
ピアノレストリオ好きにもありがたいフォーマットだし、ピアノレスだからこそ、演奏の中で大きな比重を占めるベースの音に耳を傾けることが出来るのだ。

ぐいぐいと躍動的なノリと音で演奏を牽引するチェンバースの音は、その発する音の羅列は必ずしもマーシュ繰り出すテナーのフレーズとは抜群の相性なのかというと、必ずしもそうとは限らないミスマッチ的なところもあるにもかかわらず、そのような瑣末なことなど気にさせないだけの「力」がある。

とにかく、俺が演奏を引っぱていくからついてこいよ、といわんばかりのチェンバースのベースがリアルで生々しく聞くことが出来るのが、このアルバムのありがたいところ。

チェンバースのベースは、正確無比に1小節に4つの音を刻んでいるわけではなく、むしろ、1音一音の音価にはムラがある。

しかし、だからこそ、このムラこそがチェンバースの呼吸であり、それがすなわち、演奏の呼吸、グルーヴにつながっていることが、他の楽器の演奏が控えめなぶん、よく伝わってくるのだ。

もちろん、マーシュのテナーは、一回や二回聴いたくらいでは、なかなか理解できず、とっつきにくいテナーという印象だけが残るかもしれないが、彼独自の音の切り方や節回しに注意をすれば、「なるほど!」と彼が本当に言いたいことが突然腑に落ちてくるはずだ。

そういった意味でも、これは玄人向けのアルバムなのかもしれない。

アトランティックのマーク

関係ないけど、個人的にはジャケ写で、マーシュのほっぺたの横にポツンと置かれたアトランティックレーベルのマーク(白・青バージョン)が可愛くて気に入っている。

正直、それほど思い入れのあるアルバムではないのだけれど、この丸い白青マークの色と位置がツボなので、これを見ると、ついついかけて聴いてしまうという不思議なアルバムなのだ。

記:2017/11/12

album data

WARNE MARSH (Atlantic)
- Warne Marsh

1.Too Close for Comfort
2.Yardbird Suite
3.It's All Right With Me
4.My Melancholy Baby
5.Just Squeeze Me (But Please Don't Tease Me)
6.Excerpt

Warne Marsh (ts)
Ronnie Ball (p) #1,3
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds) #1,3
Paul Motian (ds) #2,3,4,5,6

1957/12/12
1958/01/16

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