カフェモンマルトル

text:高野雲

*

壁面静止地点

      2017/05/24

hekimen

止まった音楽

止まったような感じの音楽を作ってみたかったんですね。

それと、土で作った壁、あるいは古い日本家屋の漆喰の壁がポロポロと崩れるようなイメージも挿入できたら最高なんじゃないかと思っていました。

なぜかというと、印象的な夢のイメージを音として残しておきたかったからなのです。



sponsored link



クレイジー・クライマー

小学校5~6年生ぐらいのときの私は、日夜ゲームセンターに入り浸っていたゲームっ子だったんですが、その時、もっとも得意だったゲームが「クレイジー・クライマー」でした。

2本のスティックを使って、ひたすら高層ビルをよじ登っていくゲームです。

MajorWaveシリーズ CRAZY CLIMBER アーケードヒッツ クレイジー・クライマーMajorWaveシリーズ CRAZY CLIMBER アーケードヒッツ クレイジー・クライマー

途中、窓からは植木鉢が落とされたり、鉄アレイや鉄骨が降ってきたり、しらけ鳥がウンコをしたり、看板が落ちてきたり、キングコングがパンチをしたり、電飾看板が感電させようと待ち構えていたり、看板が落下してきたりと、もう大変!

なんなんじゃい、このビルは!ってぐらい、とにもかくにも、いろいろなアクシデントがクライマーの行く手を阻みます。

こんなビルがあったら、ビルの下を通る通行人はたまったもんじゃないですよね。

だって、上空から植木鉢や鉄アレイが落下してくるんですよ?

しかも、巨大な鳥やゴリラも棲みついているようだし。

普通、そんなビルはないし、あっても誰も登ろうとはしないでしょう。

しかし、ゲームの中では、クライマーは果敢にトライをするのですね。

なぜか?

屋上でヘリが待っているから。

最上階にたどり着いて、ヘリコプターで脱出できれば1面クリア!

ヘリにつかまって脱出に成功したときのクライマーの「わちゃっ!」って声を聴きたいために、ひたすら私は面をクリアしていました。

本当は「わちゃ!」ではなく「やった!」なんでしょうけど、当時のゲームの技術では、「わちゃ!」が精いっぱいだったのでしょうね。

4種類のビルがあって、4面のビルをクリアすれば、また1面に登場したビルに戻るということの繰り返しなのですが、私は、4面のビルには少々手こずりますが、それ以外のビルは、比較的スムースにクリアいていました。

4面のビルはね、上層階になってくると、クライミングコースが2叉に分かれてしまうんですよ。

そのため、選んだコースの直情から看板が落下してきたら、避けることが不可能で、運悪く看板が頭上から落下してきたら、死なざるを得ないのですよ。踏み止まる方法も無いわけでは無いのですが、いつもうまくいくとは限らないし。

しかし、この難所さえなければ、わりと楽勝で一番難しい4面のビルもクリアすることができます。

だから、けっこう小学生の私がゲーセンでクレイジー・クライマーをプレイしていると、人だかりができることが多かったかな。

同じゲーセンには、パックマンが猛烈にうまいお兄さんがいたんですが、そのお兄さんの華麗なスティックさばきと、集まるギャラリーの数には負けていましたが……。

バベルの塔

さて、あれはたしか中学2年生のときだったと思うのですが、夢を見まして。

私がクレイジー・クライマーになっているんですよ。

しかし、登っているのはゲームに登場するような西欧のビルではない。

中東のビル、というより、塔のようなものによじ登っているんですよ。

下を見下ろすと、砂埃の建物がポツポツとあり、その向こうには赤茶けた砂漠が横たわっている。

ものすごく静かなんです。

時間が止まっている中、自分ひとりだけが動いているような感じ。

そして、私はひたすら、バベルの塔のような塔をよじ登っているのです。

なぜか、クレイジー・クライマーのビルのように、その塔には規則的に空き窓がある。

その空き窓に手をかけて、延々と登っている私。

古い建物らしく、手をかけるたびに、壁がボロボロと崩れ、砂のようなものがこぼれ落ちるんですね。

無理やりよじ登ると、壁が崩れて塔そのものが崩壊しそうなほどなんですが、不思議なことにまったく恐怖心はない。

おそらく、ゲーセンの「クレイジー・クライマー」で鍛えたことによる自信からなのかもしれません。

音楽が聞こえてきます。

規則正しいリズムが低く流れ、時おり聴いたことのないような音が漂っています。

静かで力強い「ブホッ!」という音や、低くただよう「トタトタトタトタ」といった音が。

この状態が延々と繰り返されるわけですよ。

軽い催眠状態にかかった状態で、私はひたすらボロボロと崩れる壁の塔をひたすらよじ登る。

そんな夢を見たんですね。

目が覚めても、静かに規則的に漂う不思議なリズムが頭にこびりついて離れず、しばらくは陶酔状態だったことを覚えています。

壁面静止地点

で、それから十数年後、YAMAHAのV50で曲を打ち込もうとアイデアを練っていたら、突然中学生の時に見た「よじ登り」の夢を思い出して、その夢の中で漂っていたリズムを再現してみたのが、この曲、《壁面静止地点》なのです。

デジタルシンセでは、夢の中の音に近づけることができなかったのですが、時折登場する「トタトタタト」という尖った音とフレーズは、夢の中の音に近い感じがします。

B-2 unit

で、この曲は、ブルトン・アプレゲール・テケレッツのライヴでも披露したことがあります。

リズムトラックは完全に打ち込みなので、V50をライヴ会場に持っていき、再生スイッチをオンにすれば、演奏がはじまってくれるのでラクチンです。

その間、私はステージ上で英字新聞を読んでいたりしていましたし、メンバーはトランプ占いをしたり、客席に向かってカメラのフラッシュを焚いたりしていました。

で、新聞を読むのが飽きたら、たまにリズムにあわせてキーボードを弾いてみたりしてと、この曲は、ブルトンのライヴでは、恰好のステージ上での休憩音楽になっていましたね。

ところが、このライブを見にきていた会社の後輩がライブ終了後、こういう感想を漏らしたんです。

「先輩、さっきの2番目の曲、『B-2 unit』の影響受けまくりですね」

B-2 UnitB-2 Unit/坂本龍一

そうかなぁ?

自分では意外に感じたのですが、なにせ『B-2 unit』は、大好きなアルバムですからね。

おそらく、聴いた回数で言えば最多の部類に属するアルバムだと思うので、無意識に「あのテイスト」を再現しようとしていたのかもしれません。

自分の中では、完全に中東か北アフリカのイスラム圏のタワーを「クレイジー・クライミング」しているイメージなんですけどね。

自分の中に何がどう堆積し、どのような形で、どのような空気を帯びて表出するのかは、分からないものだと思いました。

記:2015/10/19

 - 創作