カフェモンマルトル

text:高野雲

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SUGAR〜フリージャズごっこ

      2016/04/30

yakuzaishi_girl

大学デビュー

大学のジャズ研にはいってくる部員は管楽器の場合、高校時代は吹奏楽部だったという人が多いですね。

しかし、時には大学にはいってはじめて管楽器を始める学生もいます。

そういう人はサックスを選ぶことが多いですね。

アルトサックスかテナーサックス。

バリトンやソプラノはあまりいない。

トランペット志望者も中にはいますが、やはりサックスが多いように感じます。

私はトランペットもサックスもカッコいいと思っているのですが、どうやらサックスのほうがカッコいいと思う人のほうが多いようです。

吹奏楽部出身者は譜面が読めますし、楽器演奏もできます。

ですから、パーカー・ナンバーでいえば、いきなり《ドナ・リー》などのような曲は無理にしても、《ナウズ・ザ・タイム》のような曲だったら、譜面を渡せばテーマぐらいだったら楽々吹けます。

テーマだけでも吹けてしまえば、なんとなくジャズに近づけた気分になり、その嬉しさから、かなり早い速度でジャズの演奏をマスターしていく部員が多いですね。

しかし、サックスを大学にはいってからはじめたばかりの部員はどうでしょう?

譜面を渡しても吹けません。

それ以前にロングトーンの練習だったり、スケール練習だったりと、基礎練でやることがいっぱいです。

でも、この練習ばかりしていても、せっかくジャズに憧れて入ってきたのに単調な練習ばかり。

「つまらねーや!」となって、最悪、退部しかねません。

まずは、テキトーでもデタラメでもいいから、ジャズに「参加した気分」になってもらうことが大事だと私は思いました。

だからといって、《ナウズ・ザ・タイム》や《枯葉》をやったところで、他の「吹ける」部員と自分の演奏を比較してみれば実力の差は一目瞭然。いや、一聴瞭然か。

いったい俺は大学生の間、彼らのように吹けるのだろうか?と思うと、はぁ〜とため息。

そりゃ死ぬほど練習すればああいうふうに吹けるかもしれないけど、1年生の時は授業が多く練習時間はそれほど取れなさそうだし、バイトもしたいし、せっかく大学生になったんだから、ジャズ以外にも彼女作って学生生活を謳歌したいし、そうなるとサックスの練習をする時間がないし、つまりサックスが上達することないまま、中途半端な状態で就活に突入し、きっと就職したらきっとサックスもやらんだろうし、そう考えると、やっててもあんまり意味がないし、「ジャズ研やーめた!」という部員が結構多いんですよ。大学デビューだと。

エンジョイ! フリージャズ

そうなることを防ぐためには、とにかく、どんな形でもいいから、汗をかきまくり力を出し切るまで演奏しまくり、演奏する快感をまずは身体にインプットすることが必要だと思うわけですよ。

だから、フリージャズ!

細かな約束事はいっさい取っ払い、とにかく力いっぱい吹け!

吹く・吹かないの指示は俺がする。

盛り上げる・盛り下げるの指示も俺が出す。

だから、とにかくメチャクチャでいいから思いっきり吹け!

そういう指示を出して、私は新入部員で楽器経験のない管楽器奏者には、とにかく毎日音楽室でフリージャズごっこをしていました。

ま、一番の理由は、自分が一番やっていて楽しかったというのもあるのですが(笑)。

で、最近、家にあるカセットテープを漁っていて発見したのが《SUGAR》だったのです。

アルトサックス、ベース、ドラムのトリオです。

私はエレクトリック・ベースを弾いています。

当時、愛用していたフェンダージャパンのフレットレスです。

普段はフラットワウンドの弦を張っていたのですが、この時はラウンド・ワウンドを張っていたみたいですね、音を聴いていると。

で、ドラマーはジャズ研の私の1年後輩。

当時、ドラム教室に通い始めたてのドラミングはこんな感じです。

もっとも、ジャズドラム教室ではなく、8ビート中心のポップスのドラム教室だったようですが。

で、アルトサックスは、アルトサックス歴1ヶ月にも満たない新人君。

入部した時は、アルトサックス奏者の名前は一人も知りませんでした。

入部同期は、車で海に行き、海岸でアルトサックスを吹くとカッコ良さそうだからというもの。

他の部員からは、さんざん「お前、そんなことしたら潮でボディが痛むぞ」と言われていましたが、とにかく彼は女にモテたかったようなのです。

だったら、ナンパ、合コン、女子率高いサークルに入れば手っ取り早いようなものですが、ジャズに魅了される人って、プライドが高いのか、心がどこか微妙に屈折しているのか、そういうストレートな手続きを避ける傾向があるようです。

素直に「お前が好きだ」とか「付き合ってください」とコクれば良いものなのですが、そうではなく、

俺、サックス吹く
⇒俺、サックスうまい
⇒彼女、感動する
⇒彼女、俺にコクる
⇒ハッピーエンド

……というような、まわりくどいストーリーを妄想の世界で構築して、楽器を頑張ろうとするんですよね。

新人の彼の思考パターンも例のごとくでした。

でも、そういう妄想を抱いている新人君を誘導するのは簡単です。

おまけに、ジャズマンの名前も知らないし、誰のどういう演奏が素晴らしいのかもわからない。

空っぽな状態です。

だから、阿部薫のように吹けばカッコいいぜと囁くわけです。

もっとも、マニアックなサックス奏者だから、わかる人にしかわからんけどね。

でも、「わかる女」は、こういうエモーショナルなサックスを吹く男に惚れるんだぜ〜。

実際、阿部薫の彼女は鈴木いずみといって、女優でありモデルであり文筆家でもあったからね〜。

そう吹き込めば、「本当っすか?!」と食いついてくるわけです。

だから、彼にCDを貸して聞かせまくりましたよ。

何を貸したか忘れましたが、たしか『騒』とか『ラスト・デイト』とか。

ソロ・ライヴ・アット・騒(1)ソロ・ライヴ・アット・騒(1)

ラストデイトラストデイト

寝る前には必ず聴けよという言葉を添えて。

心で聴けよ、という言葉も添えて。

で、忠実に「阿部漬け修行」を行った彼が披露した渾身のサックスの演奏を記録したのが、この《SUGAR》なのです。

彼の頑張りを讃えて、曲名は彼の苗字を英語にしただけのものです。

演奏は私がベースを弾きながら、ネックをドラムに向けて上に降ったら、ドラム君がドタバタドタバタと叩きまくり、下に下降ったらテンションを下げる。

最後は「わーっ!」と叫んで終わりにしよう。

それぐらいのルールで、「せーの!」と演奏をしました。

音の肌触りとは裏腹に、3人とも終始笑顔で演奏していました。

おお、すげー!とか、吹いとる吹いとる!とニヤリとしたりと。

どうもフリージャズというと、しかめっ面で演奏するようなイメージが強いようですが、私が異常なのかな? 真剣に取り組んでいないからなのかな? フリージャズの演奏って、ソロを除けば、楽器奏者同士のコミュニケーションのようなものですから、時には笑いながら演奏するのもアリだと思っているし、実際、笑って演奏したことも多いです。

相手がエグい音や、突拍子もない想定外のフレーズを出した時ほど、「こいつスゲー!」「やるじゃん!」と自然に笑みがこぼれてくるんですよね。

この《SUGAR》のセッションの時が、まさにそうでした。

なかなか楽しかったです。

記:2015/09/26

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