淀川長治さんに教えてもらったこと

   

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text:高良俊礼(Sounds Pal)

高良俊礼の音庫知新

ちょっと前に奄美テレビで「高良俊礼の音庫知新」という音楽紹介番組のMCをしていた。
よく視聴者の方や、お店に来られるお客さんに「あの番組で紹介しているCDは、どんな基準で選んでるの?」と、実際に訊かれることは多かったが、コレと言った基準はなかった。いや、敢えて基準を設けないことにしていた。

思考停止 ネタ切れ

「これに基づいて」というテーマを作ると、作業はやり易いのだが、毎週のように習慣的にそれをすれば、どこかで「楽したい」という気持ちが出てきて、結果として「自分が好きなもの、説明しやすいもの」をついつい選んでしまうという思考停止がどうしても起こってしまう。

「好き」を表面に出す作業は、いつかネタ切れにブチ当たる。どんなに優れた見識を持っていようが、深い知識を持っていようが、必ずブチ当たる。最初の頃は私も、公益性とエゴの狭間で随分と悩んだ。今でも番組の収録が終わる度に「本当にアレで良かったのだろうか?」「楽な方向に流れてはいないか?」と、反省と自己批判の繰り返しだ。

淀川長治さん

そんな私の悩みを払拭し、「文化の紹介者」としてあるべき姿を示してくれたのが、淀川長治さんの本だ。
彼は映画評論家、ある世代から上の人には「日曜洋画劇場の“サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ”のおじさん」として有名だろう。残念ながら故人であるが、私の記憶にも「いつもニコニコしながら、放送される映画の良いところを紹介する優しそうなおじさん」として、鮮明に残っている。

淀川さんの著作もまた、あのテレビのブラウン管での語り口調と同じく、平明な文体で書かれていて、私のような映画に疎い人間にも「映画を観たい」という好奇心を覚えさせる。
だが、淀川さんの説得力は、やっぱり「映画が好き!どの映画がというより、映画そのものが何よりも大好き!」という愛情が、文章の隅々にまで行き渡っていることに尽きる。
印象に残ったフレーズは「僕は“映画おじさん”なんです。皆さんが映画という素晴らしい芸術を楽しむお手伝いをして差し上げるのが僕の仕事なんです」という一行だ。

「映画が大好きで、映画を観ることの幸せを世の人に伝えたい」淀川さんの姿勢は頑固なまでに一貫している。しかもそこには一片のエゴもない。私が理想とするのはコレだ。
どんな音楽を紹介するのであっても、音楽を聴く楽しさを世の人に伝える“音楽おじさん”でありつづけたい。

記:2014/08/08

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●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル
※『奄美新聞』2008年12月6日掲載「音庫知新かわら版」記事を加筆修正

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