イントロデューシング・ポール・ブレイ/ポール・ブレイ

   

リズムセクションは「濃い」人たち

ジャズピアノの谷崎潤一郎とでもいうべきポール・ブレイの若き日のデビュー作。

後年の妖艶な耽美的さからは想像もつかないほど、ポキポキ、コキコキと硬いピアノを緊張感をたずさえて弾いている。

この冷んやりとした感触は、ユタ・ヒップのヒッコリー・ハウスでのライブ演奏の感触にも通じる。

そういえば、『ヒッコリー・ハウスのユタ・ヒップ』のジャケットも、このブレイのこのアルバムも、ジャケットを見ると、目のくぼみが陰になっている。

ユタ・ヒップの大理石のように冷ややかな音色や、スタティックな印象すら受けるフレージングには、レニー・トリスターノの陰が散見されるが(左手はホレス・シルヴァー的な部分もある)、そういえば、トリスターノの代表作『鬼才トリスターノ』のジャケ写も、目の陰がくぼんで陰になっている。

ポール・ブレイのこの初リーダー作のジャケットも、ユタ・ヒップのライブ盤のジャケットも、『鬼才トリスターノ』のジャケットも、くぼんだ目の周辺が影になった白人ピアニストのモノクロ・ポートレイトという共通点のみならず、そういえば、ピアノの感触までもが共通していて面白い。

さて、肝心な演奏なのだが、これがまた「すごくいい!」のだ。

アップテンポで比較的熱く燃える《ズートケース》は例外だが、それ以外は温度をあまり感じさせないピアノにもかかわらず、微妙に打鍵のタイミングを後ろに引っ張ることによって淡白な粘りを出している彼のタッチは、最後まで耳を引きつけるだけの魅力がある。

派手なフレーズはほぼ皆無。

フレージングの跳ねもほとんどイーブンかつフラットに抑えた禁欲的なピアノにもかかわらず、この端正さから漂うほのかな妖しさは、後年に発展してゆく個性の萌芽が既に現われている。

リズム隊が、なんと、チャールズ・ミンガスにアート・ブレイキーという “2大・恐い人” という組み合わせなのが面白い。

しかし、実際はミンガスもローチも堅実なバッキングに徹し、若き白人ピアニストに対しては、それほどコワモテな顔は見せていない。

どちらかというと、ブレイのピアノと同様にあっさりと淡白。

しかし、リズムの底力は強い。

スリルとリラクゼーションが絶妙に配合された、何度聴いても飽きない、いや、聴けば聴くほどあなたを虜にしてしまう、じわりじわりと不思議な快感が湧きおこる不思議なピアノトリオだ。

記:2007/02/28

album data

INTRODUCING PAUL BLEY (Debut)
- Paul Bley

1.Opus One
2.(Teapot) Walkin'
3.Like Someone in Love
4.Spontaneous Combustion
5.Split Kick
6.I Can't Get Started
7.Santa Claus Is Coming To Town
8.Opus One (Alternate Take)
9.The Theme
10.This Time The Dream's On Me
11.Zootcase
12.Paul Bley (p)
13.Charles Mingus (b)
14.Art Blakey (ds)

1953/11/30

 - ジャズ