ライフ・タイム/トニー・ウィリアムス

2021-02-27

鋭利な音の品格

引き合いに出されたアルバム、ならびにミュージシャンには大変申し訳ないのだが、先日、山下洋輔と菊地成孔の『プレイグラウンド』を聴いた後に、トニー・ウィリアムスの『ライフ・タイム』を聴いた。

いやはや、何をいまさら……な世界だが、その音のセンス、存在感、音の強さに歴然たる差を覚えた。

≪大きなのっぽの古時計≫をただ、ドシャメシャにやっているだけの山下のアルバムはもう聴けないなぁと思った。

正直、最近の山下洋輔のドシャメシャな鍵盤叩き奏法には、初期のトリオの頃のような凄みが感じられない。

確立されてしまった一つの「芸」にしか感じられない。

おそらく本人もそれを自覚して、それを望むお客さんのニーズに応えているだけのかもしれないが、「今、この瞬間、どうしても鍵盤を連打せなあかん!」という音楽的な必然性がまったく感じられないのだ。

「このへんで"トレードマーク”を入れておこう」という作為性を強く感じる。

さらに、曲によってゲスト参加している菊地のフリージャズもどきな捩れサックスにも、いまひとつだなぁと思いながら聴いていたのだが、このアルバムの直後の『ライフ・タイム』を聴いた瞬間、私が漠然と感じていた煮え切らない思いがハッキリした。

言い方悪いけど、要は同じフリーがかった音楽に求められるのは、「品があるか・ないか」が大きいんじゃないかということ。

ドシャメシャと自由にやるぶん、逆に演奏者に求められるのは、音のセンス、それ以上に品格なんだな、と思った。

こういっちゃ失礼だが、もちろん、品が無いのは前者(笑)。

圧倒的な音数、音圧でこちらをカタルシスに導こうとする意図は伝わってくるが、それ以外のサムシングはなにも感じられない。

どうして、大きなのっぽの古時計をドシャメシャなのか。

もちろん、皆が知っている曲がメチャメチャに破壊されるカタルシスを狙
ってはいるのだろうが、どうにも楽しそうなのは、演奏している本人たち
だけのような気がしないでもない。

一方、トニーの初リーダー作。
この研ぎ澄まされた音色、音の配置、空間はどうだ。

音楽の種類も微妙に違うゆえ、同じ土俵に乗せるのも申し訳ないのだが、フリーに音空間を構築してゆこうとするミュージシャンの大きな意図は両アルバムとも変わらないはずだ。

トニーの『ライフ・タイム』のサウンドは、アルバムの最初から最後まで、一瞬の隙間も緩みもない。

そして、知的。
鋭敏。

サム・リヴァースのサックスが思わせぶりに弧を描く《トゥー・ピース・オブ・ワン:グリーン》。

アルバム中、もっともエキサイティングなナンバー《トゥモロウ・アフタヌーン》。

トニーのシンバルレガート、ゲイリー・ピーコックのステディな4ビートの刻みが心地よい。

それに覆いかぶさるサム・リヴァースの怪しいサム・リヴァースのテナーも素晴らしい。

思うにトニーのシャープなドラミングは、サム・リヴァースがいたからこそ生み出されたスタイルなのでは? と思うほど、この二人の相性は良い。

トグロをまきながら怪しく蠢くリヴァースのテナーは、ショーターのサックスよりもトニーと相性が良いのではないか?

おそらく、トニー自身も次作の『スプリング』でもリヴァースを起用しているように、彼はリヴァースの怪人のようなテナーが大好きだったのだろ
う。

しかし、マイルスはリヴァースをあまり買っていなかった。

だからこそ、リヴァースな要素も含まれるウェイン・ショーターがレギュ
ラーの座におさまったのだろう。

マイルスにとってはショーターが1番だったのだろうが、トニーにとって
はショーターは2番だったに違いない。

曲の紹介に戻ると、ミステリアスかつ硬質な音空間の《メモリー》も良い。
ボビー・ハッチャーソンのマリンバがとても良い効果を出している。

ピアノのリフレインなハンコックのピアノと地の底から這い上がるロン・カーターのベースが印象的かつ静謐な雰囲気を醸しだす《バーブス・ソング・トゥ・ザ・ウィザード》。

こんなにシリアスタッチなカーターも珍しい(笑)。

トニー・ウイリアムスが10代後半のときの初リーダーアルバムだが、空間への音の配列するセンス、方法論は既に完成の域に近い。

この空間感覚、スピード感は、次作の『スプリング』でより一層シャープに研ぎ澄まされてゆく。

記:2008/02/25

album data

LIFE TIME (Blue Note)
– Tony Williams

1.2 Pieces Of One:Red
2.2 Pieces Of One:Green
3.Tomorrow Afternoon
4.Memory
5.Barb’s Song To The Wizard

 Tony Williams (ds,tympani,wood blocks,maracas&triangle)
 Sam Rivers (ts) #1-3
 Bobby Hutcherson (vib,marim) #4
 Herbie Hancock (p) #4,5
 Richard Davis (b) #1,2
 Gary Peacock (b) #1-3
 Ron Carter (b) #5

 1964/8/21,24

関連記事

>>スプリング/トニー・ウィリアムス

ジャズ

Posted by