ブルース・フォー・ブッファマン/バド・パウエル

   

ヨーロッパ最後のスタジオ録音

陽のパウエル。
躁のパウエル。
パウエルが残した最後の輝き。

この『ブルース・フォー・ブッフォマン』は、もしかしたら『バド・パウエル・イン・パリ』と並ぶ渡欧時代のパウエルの最高傑作かもしれない。

パウエルはこのアルバムを録音した2週間後に、5年間生活したヨーロッパを去り、ニューヨークに戻る。

フランスで録音したヨーロッパ時代最後のスタジオ・レコーディングが輝かしい置き土産になった(このレコーディングの後、フランシス・ポウドラ夫妻に誘われ、ノルマンディの別荘でおこなったセッションがまとめられた私家録音盤『ホット・ハウス』があるが、スタジオでの録音はこの作品が最後)。

1曲目の《イン・ザ・ムード・フォー・クラシック》。
出だしのほんの数秒。
放出される音のカラーで、このアルバムのムードが決定されているといっても過言ではない。

そう、一貫してこのアルバム全体の雰囲気は最後まで「陽」なのだ。

ちなみに《イン・ザ・ムード・フォー・クラシック》は、パウエルのオリジナルで、このアルバムのタイトル曲にもなっているブッフォマンにある療養施設で過ごしたときに作られたもの。

初期の傑作ナンバー《ウン・ポコ・ローコ》や《オブリヴィアン》の作曲者とは思えないほど、角が取れ朗らかさが増している。

「陽」といえば《ウナ・ノーチェ・コン・フランシス》もそうだ。

映画『ラウンド・ミッドナイト』をご覧になった方は御存のとおり、フランスに拠点を移したバド・パウエルの面倒を見た良き理解者、フランシス・ポウドラに捧げられたナンバーだ。

ラテンタッチのリズムのテーマ、印象的な和音の響きのサビ。
明るさ、無邪気さが前面に出た楽しげなムード。心華やぐナンバーだ。

後期パウエルの愛奏曲のひとつ《ライク・サムワン・イン・ラヴ》も良い。

『ゴールデン・サークルvol.2』のようなスローテンポではなく、こちらのバージョンはデクスター・ゴードンの『アワ・マン・イン・パリ』のオマケテイクに近いテンポ設定だ。やはりこれぐらいの速度のほうが溌剌感が伝わってきて良い。

ラストをしめくくるのも、これもパウエルの愛奏曲《ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー》だ。

曲想と躁状態のパウエルの気分がピタリと合致した演奏で、まさに「陽」ではじまり「陽」で終わるこのアルバムイメージを決定づけている。

パウエルのピアノというと、どこかダークな色彩を帯びたイメージがどうしても付きまといがちだが、このアルバムのパウエルのピアノにはそのようなイメージはほとんどない。

ピアノに貼りついた影のようなものがゴッソリと抜け落ち、まるで憑き物が落ちたかのよう。そして残ったものは漲る生命力。

そして、その輝く生命力が封印されたオフィシャルな録音は、これが最後になってしまうのだ。

記:2013/06/20

album data

BLUES FOR BOUFFEMONT (Black Lion)
- Bud Powell

1.In The Mood For A Classic
2.Like Someone In Love
3.Una Noche Con Francis
4.Relaxin' At Camarillo
5.Moose The Mooche
6.Blues For Bouffemont
7.Little Willie Leaps
8.My Old Flame
9.I Know That You Know
10.Star Eyes
11.There Will Never Be Another You

Bud Powell (p)
Michel Gaudry (b)#1-8
Art Taylor (ds)#1-8
Guy Hayat (b)#9-11
Jacques Gervais (ds)#9-11

1964/07/31 #1-8
1964/8月 #9-11

 - ジャズ