ノウ・ホワット・アイ・ミーン/キャノンボール・アダレイ

   

動画解説

黒人バンドの中の白人ピアニスト

マイルス・デイヴィスがレッド・ガーランドの後釜ピアニストとして雇い入れたピアニストは、白人ピアニストのビル・エヴァンスだった。

ビル・エヴァンスがマイルス楽団にどれほど大きな貢献をし、大きな足跡を残したのかに関しては、他の記事にも書いているので、ここでは割愛させていただくが、残念なことにビル・エヴァンスのマイルスのグループの在団期間は7ヶ月と短いものだった。

この短い在団期間の理由は、いくつかの理由が挙げられるが、その中の理由の一つとして、テナーサックス奏者であるジョン・コルトレーンと、あまり折り合いが良くなかったという説もある。

なかにはコルトレーンからの「いじめ」が原因だという説もあるが、私は、さすがにそれは行き過ぎな解釈なのではないかと考えている。

>>コルトレーンからの「いじめ」?ビル・エヴァンスがマイルス・バンドを退団した理由

しかし、コルトレーンとはあまり折り合いが良くなかったということは事実のようで、その後、マイルス・グループを離れた後のコルトレーンとエヴァンスの共演作は、ない。

その反面、キャノンボール・アダレイとは仲が良かったようだ。

ワルツ・フォー・デビー

キャノンボールは、マイルス・セクステットから離れた後にもエヴァンスに声をかけ、自身のリーダー作のピアニストとして彼を選んでいる。

その作品が『ノウ・ホワット・アイ・ミーン』だ。

ジャケットのクレジットを見ると、キャノンボールの名に続き「ウィズ・ビル・エヴァンス」と表記されており、また、冒頭を飾るナンバーが、エヴァンスの有名曲《ワルツ・フォー・デビー》であることからも、キャノンボールは何かとエヴァンスに気を配り、エヴァンスを立てていることが伺われる。

《ワルツ・フォー・デビー》は、言うまでもなく、エヴァンスを代表する名盤『ワルツ・フォー・デビー』に収録されているナンバーで、特にジャズに詳しくない人でも一度や二度は耳にしたことがあるはずの有名曲だ。

名盤『ワルツ・フォー・デビー』に収録されているピアノトリオのバージョンと、こちらのキャノンボールがアルトサックスで愛らしい旋律を吹くバージョンを聴き比べてみると面白い。

エヴァンスがリーダーのピアノトリオでの演奏は、内なる情念を露骨に表に出すことなく、静かに燃え上がるような演奏で、風景としては夜が似合う。

それも、ニューヨークのような大都会の夜。

しかし、キャノンボールが主旋律をとるバージョンは、カラッと明るく湿度がまったく感じられないほどの青空。

シチュエーションは、夜ではなく、どう考えても昼だろう。

同じ曲が、こうも違う表情をみせていることが興味深い。

芯があり明朗な音色のキャノンボールのアルトサックスは、この曲の輪郭をよりいっそう明快に打ち出し、楽しげで愛くるしい雰囲気を生み出している。

エヴァンスも、主役のキャノンボールのアルトを陰ながら引き立て、あたかも己の曲が、どう料理され変身していくのかを楽しげに見守っているかのようだ。

個人的には、ピアノトリオのバージョンのほうが演奏の深みとしては上だと考えているが、なかなかどうして、サクッと明快に演奏されたキャノンボール・バージョンの《ワルツ・フォー・デビー》も悪くない。

端正なリズムセクション

パーソネルを見ればお分かりのとおり、リズム隊はMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)の2人だ。

したがって、キャノンボールのイメージから、躍動的な演奏を期待しすぎて再生すると、軽い肩透かしをくらうかもしれない。

どちらかというと、メリハリのある躍動感よりも、端正に整ったリズムを中心に演奏が展開されるナンバーが多いからだ。

また、キャノンボールの元気溌剌なアルトサックスを期待し過ぎても肩透かしを食らうかもしれないし、エヴァンスが時折見せるアグレッシブなピアノを期待しても、叶わないかもしれない。

キャノンボールもエヴァンスも、互いを引き立てあうことを念頭に入れているのだろうか、いつものキャノンボールの個性全開の演奏を10だとすると、8ぐらいにセーブされ、同様にエヴァンスの個性も8割程度に抑えられている。

つまり、両者は個性全開でぶつかり合うことによって、演奏のクオリティを高める選択をせず、どちらかというと、「8」+「8」から生まれるサウンド、気配のほうを重視していると思われる。

そのあたりのことを掴んだ上で鑑賞しないと、キャノンボール好きからしてみれば「いつもよりノリノリ度が低いな」となるし、エヴァンス好きも「ちょっと引っ込み過ぎなんじゃない?」と感じてしまうことだろう。

つまり、個々のプレイヤーの個性を期待して聴いてしまうと、このような事態に陥ってしまう可能性があるので、知的だが、いまひとつインパクトに欠ける演奏と感じてしまうことだろう。

しかし、互いに気を遣うことで、自己主張を控えめにした大物同士の演奏からしか生まれえぬ端正で無駄のない演奏も悪くない。

演奏のバランスの申し分なしの、キャノンボールの諸作の中でも、『サムシン・エルス』同様、彼の持ち味から考えると、かなり異色の部類に属するアルバムなのではないだろうか。

記:2015/07/24

album data

KNOW WHAT I MEAN (Riverside)
- Cannonball Adderley

1.Waltz for Debby
2.Goodbye
3.Who Cares?(Take 5)
4.Who Cares?(Take 4)
5.Venice
6.Toy
7.Elsa
8.Nancy(With the Laughing Face)
9.Know What I Mean?" (Re-take 7)
10.Know What I Mean?(Take 12)

Cannonball Adderley (as)
Bill Evans (p)
Percy Heath (b)
Connie Kay (ds)

1961/01/27,02/21,03/13

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>>仲良しコンビが奏でる《ワルツ・フォー・デビー》
>>ワルツ・フォー・デビー/ビル・エヴァンス

追記

ビル・エヴァンスがスコット・ラファロとポール・モチアンのトリオで演奏した《ワルツ・フォー・デビー》の演奏が、ニューヨークの夜を象徴しているとしたら、キャノンボールがエヴァンスを組んで演奏した《ワルツ・フォー・デビー》の演奏は、さながらカリフォルニアの昼間のように、カラッとスッキリ爽やか、簡潔なニュアンスですね。

録音場所はニューヨークだけど。

同じナンバーでも、また、作曲者が同じで、実際にピアニストとして参加していたとしても、主役が違うだけで、こうもニュアンスが違うものか!

そうジャズを聴き始めの頃は驚いたものです。

だから、面白い!興味深い!
……となり、ジャズへの興味がどんどん湧いてきて、それで、現在に至っている?

 - ジャズ