ルッキング・アヘッド/ケン・マッキンタイヤー

   

何もかもドルフィーとは好対照

映画『ラウンド・ミッドナイト』冒頭のタイトルバックに流れる《ラウンド・ミッドナイト》をご存じだろうか?

この不思議な音色はボビー・マクファーリンのファルセットだが、まるでミュートをつけたトランペットが歌っているようにも聴こえる。

それと同様、ケン・マッキンタイヤーとエリック・ドルフィーの共演盤『ルッキング・アヘッド』を聴くと、マッキンタイヤーのアルトも、まるで人の声。

楽器ではなく、人間がハミングを口ずさんでいるように聴こえる。

この「ヴォイス」は、あまりアルトサックスが鳴っているようには聴こえない。

まさに「肉声に近い楽器」といわれているサックスが、マッキンタイヤーによって肉声に近い音色を獲得している。

フラフラと上下する音程。

このフラフラと微妙に揺れるピッチと軽やかさで徘徊するフレーズ。

まるで、笑いながら口ずさんでいるようなアルトの音色は、聴き手の気分を和ませるに十分。

いや、それ以上に、私など、いつも聴くたびに笑ってしまうほどなのだ。

彼と共演している同じくアルトサックスのドルフィーのプレイを聴くと、いかに彼のアルトサックスは骨太で、フレーズも構築的なのかが、よく分かる。

音色
⇒芯の太いドルフィー
⇒薄くて軽いマッキンタイヤー

音程
⇒少なくとも発音中には音程のよれないドルフィー
⇒一音を鳴らしている間も音程がフラついているマッキンタイヤー

フレーズ
⇒確信を持ってフレーズを構築しているドルフィー
⇒とりとめもなく、気分にまかせて、ゆらゆらと鼻歌を歌っているようなマッキンタイヤー

両極端な個性を持つこの両者の組み合わせは、不思議とうまくかみ合い、楽しい気分で聴けるジャズに仕上がっている。

マッキンタイヤーのアルトの音色、ピッチ、フレーズは、ジャズというよりも、不思議とブルースのフィーリングを強く感じてしまう。

マッキンタイアの、アドリブのアプローチは、ドルフィーのようにフレーズを「構築」していくスタイルよりも、気の向くままに「歌う」といった点に近く、同じアルト奏者でいえば、マッキンタイヤーの資質は、オーネットコールマンにも近いのかもしれない。

そういえば、オーネットのサックスで紡がれる「歌」にも、私はブルースを感じてしまうのだが、身体の奥にまでブルースが染み付いたサックス吹きの音は、たとえフォーマットがブルースではないにしても、出てくる音にはルーツが見え隠れするのかもしれない。

真剣な顔つきになってしまうジャズは多いが、口もとがほころんでくるジャズはそう多くはない。

まさに、これが、そんな1枚。

ジャケットのケンちゃんは、ガンを飛ばして怖い顔だが、アルトのプレイは、和む、和む。

顔は怖いが和みの音色。

フィル・ウッズとジーン・クィルのアルト対決は、どちらの演奏が誰のアルトなのか分かりにくいが、こちらの共演は、もうバッチリ。

これほど分かりやすいアルト同士の共演(どうしても“競演”には聴こえない)はないのではないか?

記:2009/01/05

album data

LOOKING AHEAD (Prestige)
- Ken McIntyre

1.Lautir
2.Courtsy
3.Geo.'s Tune
4.They All Laughed
5.Head Shakin'
6.Dianna

Ken McIntyre (as,fl)
Eric Dolphy (as,fl,bcl)
Walter Bishop Jr. (p)
Sam Jones (b)
Art Taylor (ds)

1960/06/28

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