困った時にはミルト・ジャクソン
どんなサウンドにも溶け込み、個性を発揮する
ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンは、さりげなく凄い。
彼が叩き出すのヴァイブのサウンドは、ウェス・モンゴメリーのギターにしろ、マイルス・デイヴィスのトランペットにしろ、どんな楽器にでも溶け込んでしまう親和性の高さがある。
それでいて、溶けて一つになった音色に埋没するというわけでもなく、その音の中からは、ミルト!としか言いようのない存在感をも放つところが、やはり、さり気なく凄いとしか言いようがないのだ。
したがって、彼は、誰とでも共演できるだけのキャパシティがあるだけではなく、相手の中に溶け込みながらも、自分自身の個性をキチンと出せるだけの音の存在感があるのだ。
ゴルソンカラーがミルトカラーに染まる
例えば、このアルバム、「バグス・オパス』。
これは、ミルト・ジャクソンと、ベニー・ゴルソン&アート・ファーマーコンビの邂逅とでもいうべきセッションが収録されている。
《クリフォードの思い出》や、《ウィスパー・ノット》といったベニー・ゴルソンの曲が取り上げられていることからも分かるとおり、ゴルソン色の強い内容かもしれない。
しかし、ゴルソンのアルバムではないんだなぁ。
強烈に主張するわけでもないのに、ミルト色が色濃く漂うこの雰囲気。
もとより、ゴルソン=ファーマーのコンビは2管が繰り出す音のアレンジが美しいが、これにミルトのヴァイブが加わると、さらに美しいハーモニーの誕生だ(ハーモニーは3音以上の音の重なりをいうので、ゴルソンとファーマーの2管の音だけでは、ハーモニーとは言わない)。
演奏に溶け込み、なおかつ、ふくよかさを加え、どんな相手の土俵の中でも、きちんと自分を出せるミルトのヴァイブ。
やっぱり、この人は名手だ。
こういうさり気ないアルバムが、さり気なくかかるジャズ喫茶が好きだ。
というより、困った時にはミルト・ジャクソン。
何をかけようか、何を聴こうかとジャズの選曲で迷った際は、リーダー作でなくても、MJQでなくても良い。ミルト・ジャクソンが参加しているアルバムをかければ、まず「ジャズな気分」と「ジャズなムード」を損ねることはないだろう。
記:1999/05/02