モンタラ/ボビー・ハッチャーソン

   

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シンプルなサウンド、絶妙な音の抜き加減

マッドリブの『シェイズ・オブ・ブルー』(邦題:ブルーノート帝国への侵略)を聴いて、ますます、この『モンタラ』のことが好きになった。

マッドリブのテイクは、スクラッチ混じりのこの《モンタラ》の音源に、ラフなリズムの打ち込みがかぶさり、ヒップホップ的な要素がまぶされたトラックで、この『シェイド・オブ・ブルー』特有のジリジリとした殺伐間が違和感なく加味されていて、これはなかなかカッコ良いトラックだと思っている。

通常、このようなリミックス音源を聴いてしまうと、たとえばUS3の《カンタロープ》を聴いた後に、ハンコックの原曲(『エンピリアン・アイルズ』の《カンタロープ・アイランド》)に戻ると、なんだか情報量の少なさに間延びをした感じを覚えてしまうものだが、《モンタラ》の場合は、いっさいそういうことが無い。

むしろマッドリブの音源を聴いた後に、原盤の《モンタラ》を聴くと、よりいっそう「抜きの美学」によって構築された力強い曲の骨格が浮かび上がってくるため、さらにこの曲に対しての愛おしさを覚えるに違いない。

この上がって下がっての旋律は、シンプルなようでいて、旋律の流れは同じながらも、いくつものバリエーションがあるために、なかなか口ずさめそうで口ずさめない。

快楽的でいて、それでいてどこかストイックで。

少々スカスカな感じもするため、あともう少し楽器の数が増えればという微妙な飢餓感を一瞬感じさせつつも、よく聴くと、この抜き加減がいちばん丁度良いのだと感じさせる絶妙なサウンドの按配。

気だるい極上グルーヴも絶妙だ。

このグルーヴの源泉はパーカッショニスト達が繰り出す「うねり」にあり!

ウィリー・ボボのほか、4~5人のパーカッション奏者が参加した、ハッチャーソン流「南国グルーヴ」の快作といういえる言うことなしの楽曲、アレンジ、演奏だ。

夏の夜にまったりと。
秋の夜長にもまったりと。
夜、ラムベースの甘めのカクテルをググイッと飲みながら耳を傾けたいサウンドだ。

とにかく心地よい気分で聴けるアルバムだ。

パーソネルを見ると、参加ミュージシャンの数の多さに圧倒されるかもしれないが(特にパーカッション)、曲によって参加したりしなかったりなので、パーソネルとして列記されている全員が一丸となってゴージャスなサウンドを奏でているというわけではない。

むしろ、人数がもう少し欲しいと思わせるくらいの風通しの良さを感じる。

甘いムードをブルー・ミッチェルのトランペットがピリリと絞める《モンタラ》。

個人的には、この《モンタラ》ばかりをピンポイントで愛聴しているが、もちろん、アルバム通しで聴いても心地よい。

《ラヴ・ソング》は、太いベースとチリンチリンと金属の涼やかな音色が心地よい。

最初は《モンタラ》に耳を通し、理由は分からないまでも、なんだか「分かる」と感じた人は、末永くこの不思議な感触のアルバムと付き合えるのではないかと思う。

記:20109/09/04

album data

MONTARA (Blue Note)
- Bobby Hutcherson

1.Camel Rise
2.Montara
3.La Malanga
4.Love Song
5.Little Angel
6.Yuyo
7.Oye Como Va

Bobby Hutcherson (vibes, marimba)
Oscar Brashear(trumpet)
Blue Mitchell(trumpet)
Plas Johnson (flute)
Ernie Watts(tenor saxophone, flute)
Fred Jackson Jr.(tenor saxophone, flute)
Eddie Cano (piano)
Larry Nash (electric piano)
Dennis Budimir (guitar)
Chuck Domanico (bass) 
Dave Troncoso (bass)
Harvey Mason (drums)
Bobby Matos (percussion)
Johnny Paloma (percussion)
Victor Pantoja (percussion)
Ralph MacDonald (percussion)
Willie Bobo (percussion)
Rudy Calzado (percussion)
Dale Oehler (arranger)

1975/08/12-14

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>>ブルーノート帝国への侵略/マッドリブ

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