ワン・ウェイ・トラヴェラー/菊地雅章

      2021/02/23

『ススト』に負けぬ音の洪水

シンプルな構造の中にこめられた重層的&分裂的な複雑さ、そして心地良さ。

雅楽的な要素も盛り込まれる一方、どんどん膨張を繰り返し、少しずつ沸点へと到達、やがてカタストロフを迎える音楽ストーリーは、耳を惹きつけてやまない魅力を有する。

名盤『ススト』に続いて発表されたこの作品『ワン・ウェイ・トラヴェラー』。

世評では『ススト』が名盤とされているが、こちらの『ワン・ウェイ・トラヴェラー』もパワフルな音の洪水っぷりでは負けてはいない。

そう音の洪水。

心地よいが眩暈がクラクラくるほどの。

ある種の人力トランス・ミュージックと呼んでも差し支えないだろう。

おそらくはエレクトリック時代のマイルスの影響を多分に受けていることは疑いの余地はないが、マイルスが作り出す混沌としたエレクトリックサウンド空間と比較すると、こちらの音空間は、一見、参加楽器の多さが混沌を生み出しそうに見えつつも、かなりスッキリと整然とした統制が取れているように感じる。

というよりも、マイルスの場合は時に余剰ともいえる「毒」の成分が含有されることが少なくないが、菊地雅章の場合は、マイルスほどの「悪人」にはなりきれていないようだ。

だからといって、それがこの作品の価値を下げるというわけではなく、むしろエレクトリック・マイルスとは違う角度で、大音量で没入できる音の洪水盤だ。

日野皓正や、スティーヴ・グロスマンの力演も楽しめる。

記:2010/06/11

album data

ONE WAY TRAVELLER (Sony)
- 菊地雅章

1.Alacalder
2.Sum Dum Fun
3.Madjap Express
4.Sky Talk

菊地雅章 (key)
日野皓正 (cor)
Sam Morrison (ss)
Steve Grossman (ss,ts)
Hassan Jenkins (b)
Gass Farkon (g)
Billy Paterson (g)
James Mason (g)
Butch Campbell (g)
Marlon Graves (g)
Ronald Drayton (g)
Richie Morales (ds)
Victor Jones (ds)
Aiyb Dieng (per)
Airto Moreira (per)
Alyrio Lima (per)

1980/11月

 - ジャズ