ウィズ・リスペクト・トゥ・ナット/オスカー・ピーターソン

   

ナットと交わした密約(?)

オスカー・ピーターソンがニューヨークにやってきた頃のピアノトリオのスタイルは、ピアノ+ベース+ドラムスの編成が一般的だった。

バド・パウエルが始めたピアノトリオのスタイルが既に定着していたのだ。

ところが、ピーターソンのピアノトリオのスタイルはご存知のとおり、ピアノ+ギター+ベースというスタイル。

その頃ニューヨークで、上記スタイルと同じフォーマットで活躍しているピアニストがいた。

ナット・キング・コールだ。

一般的には、シンガーとして有名なキング・コールであるが、彼はピアノも抜群に巧いということはあまり知られていない。

ピーターソンとナット・キング・コールがある日であったときのこと。

「二人とも、ギター入りのピアノトリオというスタイルだし、二人とも歌を歌うし、二人ともピアノのスタイルもなんとなく似ているから、バッティングしちゃうよね?」

そういう話になったようだ。

そして、二人は話し合った結果、「よし! 片方は歌に専念、片方はピアノに専念することにしよう」ということになった。

ピーターソンは、年上のナットを立て、「あなたが好きなほうを選んでください」と言ったら、ナットは「じゃあ自分は歌に専念するよ」となり、ピーターソンはピアノに専念することにした。

結果、シンガーとしての側面を強調した活動にシフトしたナットは、よりポピュラーな人気を獲得していき、ピーターソンはピーターソンで、自身のピアノトリオにさらに磨きをかけ、ジャズピアノを代表する人物となっていった。

時おり、ピーターソンとナットの選択が逆だったらどうなるのかと考えるが、やはりピーターソンはピアノに専念して良かったんじゃないかな。

ピーターソン、もちろん歌は下手ではないけれども、やはりナットの歌のほうが一枚も二枚も上手だと思うから。

ピーターソンの歌を聴きたい人は、ナット・ キング・コールが亡くなった直後に、ピーターソンが追悼レコーディングをした『ウィズ・リスペクト・トゥ・ナット』がおすすめ。

ナット・キング・コールのナンバーを歌うピーターソンは、もちろん敬愛の気持ちからなのだろうけれど、けっこうナット・キング・コールの甘い歌声に近く、かなり二人のスタイルは似ていたんだなということに気付く。

参加メンバーは下記パーソネルをご覧いただければお分かりのとおり、かなり豪華。
レイ・ブラウン、ハーブ・エリスといった御なじみの顔ぶれから、ハンク・ジョーンズ、J.J.ジョンソン、メル・ルイスというベテラン、そしてフィル・ウッズまでが参加している。

ナット・キング・コールの人気ぶりと、それに伴った贅沢な企画だったことが分かる。

記:2013/08/06

album data

WITH RESPECT TO NAT (Verve)
- Oscar Peterson

1.When My Sugar Walks Down the Street
2.It's Only a Paper Moon
3.Walkin' My Baby Back Home
4.Sweet Lorraine
5.Unforgettable
6.Little Girl
7.Gee, Baby, Ain't I Good to You
8.Orange Colored Sky
9.Straighten Up and Fly Right
10.Calypso Blues
11.What Can I Say After I Say I'm Sorry?
12.Easy Listening Blues

Oscar Peterson (p,vo)
John Frosk (tp)
Joe Newman (tp)
Ernie Royal (tp,flh)
Danny Stiles (tp,flh)
Wayne Andre (tb)
Jimmy Cleveland (tb)
J. J. Johnson (tb)
Tony Studd (bass tb)
Seldon Powell (alto fl, tenor fl)
Jerome Richardson (bass fl, tenor fl)
Phil Woods (as)
Herb Ellis (g)
Barry Galbraith (g)
Hank Jones (p)
Ray Brown (b)
Richard Davis (b)
Mel Lewis (ds)
Manny Albam (arr,cond)

1965/10/28-11/13

 - ジャズ