ジャズ喫茶で、クラシックに感動するとは/ミハイル・プレトニョフ

      2016/11/15

神保町に新しくオープンしたジャズ喫茶(夜はバー)の「BIG BOY」。

店に設置されているスピーカー、JBLの4343は、マスターがまだ趣味でジャズを聴いていたころに購入したもの。

いつか、もしジャズのお店を開いたときには、コレを使おうと考えながら、自宅で使用していたものだ。

長年、愛用してきただけあって、マスターの好みが反映されている。

つまり、ピアノ好きのマスターらしく、ピアノの音がよく鳴り響くチューニングとなっているのだ。

だから、というのもヘンだが、どうも最初は、管楽器の音に元気がないなぁと思ったものだ。

開店初日、ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』や、デクスター・ゴードンの『ゲッティン・アラウンド』がかかったが、たしかに全体の音は水準点に達しているものの、いまひとつテナーの音が前に飛び出て来ないな、と思った。

なんとなく、テナーの音が優等生というか、品が良いのだ。

これはこれで良いのかもしれないが、いかんせん、不良度、やんちゃ度が薄れ、品行方正な優等生のようなテナーの音。

うーん、大人しくて礼儀正しいマスターの人柄を反映している音だねぇ~、などと言ってからかったものだが、ちょっとムッとしていたので、ゴメンなさい、正直な感想漏らしてしまって(笑)。

ところが、先日、この店のオーディオのチューニング、ピアノの音はダテじゃない!ということを思い知った。

前々から、マスターは、「ボクはピアノ好きなんで、ピアノ中心に流す店にするんですよ~」と仰っていたが、まさに、その言葉のとおり。

ピアノの音、ほんとに素晴らしいのですよ。

先日、閉店間際にかけてもらった、ミハイル・プレトニョフのシューマンの作品集、これにはビックラこいた。

Pletnev Plays SchumannPletnev Plays Schumann

ピアノって、こんなに荘厳で、こんなに深くて、こんなに豊かな鳴りと響きを持った楽器だったんだね、ということを改めて思い知った。

ほぼ1年おきに来日しているロシアのピアニストのプレトニョフ。

彼は、ピアノのみならず、指揮もこなす才人。

だからなのだろうか、ピアノが壮大な物語を紡いでいるかのよう。

気難しげだが息苦しくは決してならない旋律の呼吸具合、偉そうな(?)間の空け方、一遍の映画や演劇をピアノが雄弁に語っているかのような、そんなストーリーが「BIG BOY」のスピーカーからは流れ出してきた。

あらら、ピアノの音すごいじゃないの。ダテにピアノを聴くためにチューニングされていないわ。

ジャズのお店で、はじめて店のスピーカーの威力を思い知ったのが、なんとクラシックだったというのも笑える話だが、うん、たしかにこの音は素晴らしい。

ピアノファンの皆さん、是非、「BIG BOY」でピアノの音を堪能してみてください。

(小声で教えちゃうけど…) 正直、エヴァンスやパウエルなどのジャズのピアノよりも、クラシックのピアノのほうが、強弱や演奏者の息遣いがハッキリと分かります。

で、店には、数十枚ほどクラシックのCDも置いてあるので、「クラシックのCDはどんなのがあるんですか?」と尋ねてみましょう。

マスター、喜んで、誰々のピアノの音が…、と語りだすかもしれません。

ちなみに、マスターはポリーニのファン。

私もポリーニのフラットでつや消しの魅力好きです、と言ったら、口の端をニヤリとさせた笑みを浮かべたので、これは間違いない(笑)。

▼調子にのってかけてもらった、バッハのプレトニョフも素晴らしかった
Sonatas & Rondos (Dig)Sonatas & Rondos

記:2006/12/24

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