ぬくもりと安心感。職人ゲッツのテナーサックス
スタン・ゲッツの良さは、どんなに難しい曲や演奏でも、いとも簡単にスムースに演奏してしまうところだと思う。
普通だったら額に汗して演奏するところを、難解さや懸命さ微塵も感じさせず、滑らかに、しかもメロディアスに演奏してしまうところだと思う。
レスター・ヤングの影響を強く受けたソフトな流麗さ、流れるようなスムースなフレージングは、ゲッツにしか出せない味わい。いわば職人芸だ。
スタン・ゲッツは、この職人芸を大きくブレることなく、終生貫きとおした稀有なインプロヴァイザー。
よって、彼の作品には当たり外れの大きな差はない。
あとはサウンドの肌触りの違いで、人によって好きな時期が分かれるだけだ。
私に関していえば、一般にクール時代のゲッツと分類されている時期、そう、『スタン・ゲッツ・カルテット』のゲッツが好き。
この時期のゲッツと、バックのリズムセクションが醸し出す雰囲気がたまらなく好きだ。
もちろん、ボサに手を染めたゲッツも好きだし、晩年のケニー・バロン(p)との心温まる交流も素晴らしい。
ビル・エヴァンスや、チック・コリアらのピアニストと“競演”した熱いゲッツもエキサイティングだ。
しかし、最終的に落ち着くのは、『スタン・ゲッツ・カルテッツ』の世界。
この肌触り、このぬくもりだ。
初期のゲッツは、“クール・ゲッツ”と呼ばれるように、たしかにエモーションを内に秘めたままのアプローチはクールなのだろう。しかし、浮かび上がるテナーの音色そのものは、よく聴くと、非常にウォーム。
冷えきった秋の雨の中、ようやく辿りついた小さな喫茶店の扉を開けた瞬間に感じる、ぬくもりと安心感のようなものを感じる。
どこまでも空間にとろけるようにマイルドで暖かなテナー。
穏やかで淡々とした語り口の中にも、たしかなぬくもりを感じる職人ゲッツのテナーサックス。
だから私はこのアルバムには深い愛着を感じているのだ。
記:2006/11/18
album data
STAN GETZ QUARTETS (Prestige)
– Stan Getz
1.There’s A Small Hotel
2.I’ve Got You Under My Skin
3.What’s New
4.Too Marvelous For Words
5.You Steeped Out Of A Dream
6.My Old Flame
7.My Old Flame (alternate take)
8.Long Island Sound
9.Indian Summer
10.Mar-Cia
11.Crazy Chords
12.The Lady In Red
13.The Lady In Red (alternate take)
14.Wrap Your Troubles In Dreams
#8,9,10,11
Stan Getz (ts)
Al Haig (p)
Gene Ramey (b)
Stan Levey (ds)
1949/06/21
#1,2,3,4
Stan Getz (ts)
Al Haig (p)
Tommy Potter (b)
Roy Haynes(ds)
1950/01/06
#5,6,7,12,13,14
Stan Getz (ts)
Tony Aless (p)
Percy Heath (b)
Don Lamond (ds)
1950/04/14