バド・パウエル特集の選曲リスト~四谷「いーぐる」

      2018/09/07

講演会で配った選曲リストを掲載

昨日の「いーぐる特集/バド・パウエルの魅力」に参加出来なかった方のために、講演中に流した選曲リストを掲載いたします。

いらした皆さんにお配りしたレジュメをそっくりそのままコピペしたものをページ下に貼り付けましたので、ご覧になって頂ければと。

ただ、この曲目だけ見て、音楽の流れを類推しても「ん?」と感じる人もいらっしゃるかもしれませんが、私による聴きどころの解説が前後に加わった上での、この選曲だということを予めご了承ください。

つまり、一曲ごとに、それぞれ解説したいポイントが込められておりまして、それの要約がタイトル前のキャッチコピーということになります。

また、以前、パウエル特集をされた八田氏の「選曲」や「パウエル観」に異議アリ!という趣旨の選曲でもありませんので、もし万が一それを期待されていた方がいらっしゃれば、「残念でした、違うんですよ」。

八田氏の選曲は、「パウエルの演奏をクロニカルに切る」という視点としては、私としては完璧だったと思います(冒頭の同じ曲の5回連続聴き以外は)。

この素晴らしい選曲に触発された上での「俺なりの“別の切り方”」が今回の選曲です。

すなわち、八田氏が「パウエル通史」という目線でパウエルを料理したことに対し、私は、「パウエル各論」という趣旨で、いくつもあるパウエルの聴きどころ、鑑賞のポイントを挙げ、それに見合った曲をそれぞれ当てはめたいった内容なので、両者に基本的な「パウエル感」や「認識」に大きな相違はないと思います。

鎌倉からわざわざ奥様連れでいらした、メディアアナリストであり地元のラジオ局ではDJもされていた石井信平氏が帰り際に、
「あなたの編集手腕、とくと拝見できました。 つまり、“シェフとしてのあなた”は、素敵なキャッチコピーを添えたア・ラ・カルトをお客様に一皿、一皿提供したかったわけですね? だとしたら、あなたが作った小皿料理、最後まで飽きずにおいしくいただけました」
と粋なコメントを残して帰ってゆかれましたが、うん、そういうことです(笑)。

今回の私の選曲コンセプトをオシャレに翻訳してくれました(笑)。

「ア・ラ・カルト」という言葉は思い浮かびませんでしたが、私が考えた小皿料理を最後まで満喫していただけた方が1人でも多くいらっしゃれば幸いです。

いらした方からの感想

ただ、ア・ラ・カルトだけでは物足りなかったのかしら?

こっそりいらしてくださった「ジャズ喫茶破り」の方からは、「あなたの講演を聴いていたら、もっとジャズを聴きたくなってしまい、思わず浅草に走ってしまいました」と後でメールが届きました。

……へヴィなジャズファンには、物足りなかったのかもしれませんね。

でも、帰り際に、何人かの熱心なパウエル好きの女性から「良かった」と言われたので、それはそれで良しと思いたいです。

ガチガチなジャズマニアに受けるよりも、女性から「良かった」と言われたほうが私としては嬉しいのだ(笑)。

また、若手チャーリー・パーカー研究家の第一人者、「チェイシン・ザ・バード」のよういち氏からは、「かける人が違うと、暗いというイメージが先行してしまう後期パウエルにも、明るい面が浮かび上がってくるところが興味深い」という嬉しいコメントを頂戴いたしました。

うーむ、選曲者の性格がノーテンキだと、明るく聴こえるのかなぁ?(笑)

とにもかくにも、以下が、先日配ったレジュメのコピペです。

選曲のレジュメ

いーぐる特集 「バド・パウエルの魅力」 

Part 1:Powell plays Powell

●歩くパウエル/天才の背中
《I'll Keep Loving You》 (映像)
Bud Powell(p) Niels-Henning φrsted Pedersen(b) Jorn Elniff(ds) Naration:Dexter Gordon
Copenhargen,Denmark 1962年

●甘さを排したロマンチシズム
《Oblivion》
『THE GENIUS OF BUD POWELL』 (Verve)
Powell(p) 1951年 

●サティの影響も見え隠れ
《Sarabande #1》
Bill Quist 『THE PIANO SOLOS OF ERIK SATIE』(Windham Hill)
1979年

《Dusk In Sandi》
『THE GENIUS OF BUD POWELL』 (Verve)
Powell (p) 1951年

●右手のシングルトーン、強靭な粒立ちに注目
《Celia》
『JAZZ GIANT』(Verve) 
Powell(p) Ray Brown(b) Max Roach(ds) 1949年

●快速リズムに乗り、溢れ出るフレーズ このキビキビ感
《Crossin' The Channel》
『THE SCENE CHANGES』(Blue Note)
Powell (p) Paul Chambers(b) Art Taylor(ds) 1958年

Part 2:Powell plays Standards

●曲の「甘み」を絶妙な匙加減でシュガーカット
《You Go To My Head》
『THE AMAZING BUD POWELL VOL.2』(Blue Note)
Powell(p) Tommy Potter(b) Roy Haynes(ds) 1949年

●弾きたいことを弾ききれないもどかしさ
《You Go To My Head》   『The Moods』(Verve)
Powell(p) Lloyd Trotman(b) Art Blakey(ds) 1955年

●流麗・優雅。ピアニストとしての自信
《Body And Soul》
『JAZZ GIANT』(Verve)
Powell(p) Curley Russell(b) Max Roach(ds)  1950年

●訥々としたタッチ、ミスタッチすら染みてくる
《Body And Soul》   『BUD POWELL IN PARIS』(Reprise)
Powell(p) Gilbert Rovere(b) Carl"Kansas Fields"Dannell(ds)
1963年

Part 3:Powell plays Monk

●見事な換骨奪胎
《'Round Midnight》 〔映像〕    『IN EUROPE』(Jazz Music)
Powell(p) Niels-Henning φrsted Pedersen(b)Jorn Elniff(ds) 1962年

●モンク風味濃厚なパウエル曲
《Mediocre》  『THE LONELY ONE...』(Verve)
Powell(p) Percy Heath(b) Kenny Clarke(ds) 1955年

Part 4:with 3 bassists

●Curley Russell:太い音でピッタリ付き添う伴走者
《Bud’s Bubble》  『BUD POWELL TRIO』(Roost)
Powell(p) Curley Russell(b) Max Roach(ds) 1947年

●Oscar Pettiford:溢れる歌心は、太く大股歩き
《Blues In The Closet》
『THE ESSEN JAZZ FESTIVAL CONCERT』(Black Lion)
Powell(p),Oscar Pettiford(b) Kenny Clarke(ds) 1960年

●Pierre Michelot:堅実なサポート、よき執事
《Blues In The Closet》(映像)
 『IN EUROPE』(Jazz Music)
Powell(p) Pierre Michelot(b) Kenny Clarke(ds) 1959年

Part 5:Powell plays Blues

●尋常ならざる耳の“魅きつけ力”
《Swedish Pastry》
『AT THE GOLDEN CIRCLE VOL.3』 (Steeple Chase)
Powell (p) Torbjorn Hultcrantz (b) Sune Spangberg (ds) 1962年

Part 6:Powell with Horns

●強奪! スティットのソロ
《Fine And Dandy》 (take1)
『SONNY STITT WITH J.J.JOHNSON & BUD POWELL』 (Prestige)
Sonny Stitt(ts) Powell(p) Curley Russell(b) Max Roach(ds) 1950年

●強力無比な「シングルトーンでホーンライク」
《Dizzy Atmosphere》
Charlie Parker 『ONE NIGHT IN BIRDLAND』(Columbia)
Fats Navarro(tp) Charlie Parker (as) Powell(p) Curley Russell(b)
Art Blakey(ds) 1950年

●挑みかかるような独特なバッキング
《Idaho》  『BUD IN PARIS』 (Xanadu)
Johnny Griffin(ts) Powell(p)1960年

Ending

●無邪気にピアノと戯れる
《Like Someone In Love》
Dexter Gordon 『OUR MAN IN PARIS』(Blue Note)
Powell(p) Pierre Michelot(b) Kenny Clark(ds)  1963年

profile

バド・パウエル 〔本名:Earl Rudolph "Bud" Powell〕
1924年9月27日-1966年7月31日  ※9月24日生まれの説もあり

 チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーらによって確立されたビ・バップスタイルのジャズを、ピアノという楽器の分野に定着させ、「モダン・ジャズピアノの祖」と称される。現代も続くピアノ・ベース・ドラムスによる「ピアノ・トリオ」形式を1947年に創始した。
 祖父はフラメンコ・ギタリストで、父はバンドリーダー兼ストライド・ピアニスト、兄はトランペッターという音楽一家で育つ。
15歳でアール・ハインズ系のビリー・カイルの影響でジャズに興味を持つまでは、ベートーベン、リスト、ドビュッシーなどクラシックの勉強をしており、その後アート・テイタムの影響を強く受けた。
 40年代後半から51年にかけてが音楽面の最盛期とされる。
 麻薬やアルコールなどの中毒に苦しみ、精神的に障害を負ったことから、50年代中期以降の衰えは著しい。しかし、その衰えたパウエルの演奏に、それぞれ侘び寂びを感じ個々の愛着を持つファンも多い。
 60年初頭は本国アメリカに一種のジャズ不況が訪れ、多くのジャズメンがヨーロッパに活動の場を移した時期であるが、パウエルもまた59年に一家でフランスに移住、活動を続ける。アメリカと異なる良好な環境と好意的な聴衆に支えられて麻薬禍から脱却したとされるが、既に体はボロボロであり、64年ニューヨークに帰国後、演奏は続けたが、徐々に病状は悪化、結核も患い、66年の夏、しかし、果たしてパウエルは夏ということをわかっていたのだろうか、死去した。たかだか41歳だった。
 余談になるが、筆者は「晩年のパウエルを聴くと作家・葛西善蔵を思い出す」と言った友人の横顔を思い出す。彼は今、どうしているのだろうか。葛西善蔵も 41歳で死去した。やはり、アルコール中毒と結核だった。葛西は文学の鬼だった。「パウエルもピアノの鬼だった」とその友人は言っていた。
 パウエルは統合失調症であったといわれる。52年にフランスの精神科医師が薬品を開発するまで、電気ショック療法はポピュラーな治療法だったが、パウエルの治療も電気ショック療法だった。また警官から頭部に暴行も受けており、それらのために指が以前の様に上手く動かなくなったというのが通説である。特に、3度目の退院、すなわち、53年2月の退院以降の演奏に、表現内容にそれ以前の演奏とは大きな断絶を感じる。
 ベルトラン・タヴェルニエ監督の映画『ラウンド・ミッドナイト』はパウエルのフランス滞在中のエピソードを本に作られた作品である。

高野 雲

記:2007/07/01

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