ソニー・ロリンズ・ウィズ・モダン・ジャズ・カルテット/ソニー・ロリンズ

   

短編作家・ロリンズ

極論すると、ソニー・ロリンズは小説家に例えると、短編作家なのだと思う。あるいは趣味の良いエッセイスト。

もちろん、長編も書くし、実験的作品にもトライもした。長い作家生活ゆえ、様々な分野の作品を残したし、実績もあげた。

しかし、彼の持ち味がもっとも生きたフォーマットは、やはり短編なんじゃないかな?と私は思う。

彼の短編における才能が惜しげもなく凝縮されているのが、初期の名盤『ソニー・ロリンズ・ウィズ・モダン・ジャズ・カルテット』だ。

見事なストーリーテリングと構成力

メロディアスなアドリブライン、簡潔明瞭な語り口と構成。巧みな言い回し。

短い時間の中に、彼の持つエッセンスが惜しげもなく注入されており、レコーディングされて半世紀以上が経った今においても、まったく色褪せることがない。

もちろん、この後にも彼はいくつもの傑作を録音している上に、今なお健在で元気に活動を続けてはいる。

初期のこのレコーディングを持ち上げて、後はダメだのような暴論を展開するつもりは、もちろんない。

後年のレコーディングでも素晴らしいものはたくさんある。

しかし、中には、同じ言い回しが何度も出てきたり、冗長になり過ぎてしまっている演奏もあることも事実。

特に、演奏時間が長くなるほど、その傾向が強くなる気がする。私が彼のことを短編作家に喩えるのも、そのへんのところにも理由がある。

それにしても、初期の短編作家としての彼の表現力は素晴らしい。

とくに、《中国行きのスローボート》のメロディアスなアドリブを聴くたびに、うーん、この人、本当に巧いなぁと感心してしまう。

平易、明快、短い時間の中に言いたいことを言い切っており、ストーリーテリングと構成力も見事。

彼のアドリブは、あまりにも流麗で、あたかも事前に作曲していたかのような確信に溢れたいる。

アタリマエのようにスムースに吹かれているゆえ、アドリブの旋律が時として、耳の右から左へ流れていってしまうこともあるかもしれないが、アタリマエのように聞き流せるほどの名メロディを瞬間的に紡ぎ出せるジャズマンの何人いることか。

タフな巨人が、朗々とメロディアスなプレイを繰り広げる背後には、そうとうな修練とセンスが必要だったに違いない。

だからだろう、彼は何度も雲隠れをして、自己の研鑽につとめた。煙草も麻薬も絶った。

彼をそうさせた理由は、“かつて”の、そう、このアルバムをレコーディングした頃の閃きを取り戻したかったからなのでは?

たしかに、彼は雲隠れでの研鑽の結果、新しい境地を手に入れた。

今までにない“語法”も身に着けた。

新たな分野にチャレンジ出来うるだけの経験とスキルも身につけることが出来た。

もちろん、それなりの成果もあげたし、ジャズジャイアンツと呼ばれるに相応しい実績も残した。

しかし、短編作家としての鋭い瞬発力は、ついぞ取り戻すことはなかった。

記:2006/06/18

album data

SONNY ROLLINS WITH MODERN JAZZ QUARTET (Prestige)
- Sonny Rollins

1.Stopper
2.Almost Like Being In Love
3.No Moe
4.In A Sentimental Mood
5.Scoops
6.With A Song in My Heart
7.Newk's Fadeaway
8.Time On My Hands
9.This Love Of Mine
10.Shadrack
11.On a Slow Boat to China
12.Mambo Bounce
13.I Know

# 1-4
Sonny Rollins (ts)
John Lewis (p)
Milt Jackson (vib)
Percy Heath (b)
Kenny Clark (ds)
1953/10/7

# 5-12
Sonny Rollins (ts)
Kenny Drew (p)
Percy Heath (b)
Art Blakey (ds)
1953/10/07

# 13
Sonny Rollins (ts)
Miles Davis (p)
Percy Heath (b)
Roy Haynes (ds)
1951/01/17

追記

ロリンズのこのアルバムに、マイルスが参加している。
トランペットで?
いや、ピアノで。

《アイ・ノウ》という短い曲。
ピアノソロはない。
バッキングに徹している。

しかし、このバッキングも、なんだかモゴモゴと遠慮がちで、聞こえるんだけれども、よく聞こえない。

後年のエレクトリックマイルスのように、エグい和音をオルガンでビャーっ!って感じじゃない。

ただ、演奏に色を添えています、と、まぁ、そんな感じ。

記:2007/06/18

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