シンバル乱打! アート・ブレイキーが叩く《テンパス・フュージット》
ブルーノートのマイルスとブレイキー
私がはじめて聴いたマイルス・デイヴィスとアート・ブレイキーの演奏は、《テンパス・フュージット》だったんです。
そう、ブルーノートの『マイルス・デイヴィス・オールスターズ』に収録されている演奏ですね。
冒頭数秒から、なんだかヤバすぎる危険な香りがムンムン漂ってきて、「お~これこそジャズだぁ!」……なんて、わけのわからん興奮でアドレナリンが出まくったことを覚えています。
凄まじきシンバルの乱打
まだジャズ初心者だったゆえ、テーマのメロディとかアドリブとかはよくわからなかったけど、空気をこれでもか、これでもかとビシビシバシバシむち打つようなドラムの音にはキましたね。
ドラムの主はアート・ブレイキー。
特にマイルスのトランペットソロが終わってからのほうが(ジミー・ヒースや、J.J.ジョンソンのソロパートね)ブレイキーの「乱打」がよりいっそう凄まじく勢いづき、そのとき超大音量で聴いてたら失神してたかもね。(←ちょっと誇張)
その後、ジャズ・メッセンジャーズというブレイキー率いるグループの存在を知り、『モーニン』を聴いて、「これが本当に同じドラムの人?!」とズッコけたものですが(笑)、ま、後になって、『モーニン』のドラミングもそれはそれで良さを見いだすようになりましたけど……。
《チュニジアの夜》なども知り、またメッセンジャーズのアルバムも少しずつ増えるにしたがってブレイキーのドラミングの個性、持ち味などを掴めるようにはなり、大好きなドラマーになったんですけど、でも、やっぱりマイルスと演った《テンパス・フュージット》ほど殺気立ったドラミングのトラックにはいまだ出会っていないのです。
ヤヴァ凄いドラミング
キャリアの長いブレイキーのこと、他にももっと素晴らしいドラミングの演奏はたくさんあるんですけど、《テンパス・フュージット》のマスターテイクほど殺されそうにヤバい気分にさせられるドラミングって他にないような気がする。
今聴いても、最初に聴いたときの衝撃に近いものを感じます。
「ヤバ凄い」という形容がもっとも似合うドラミングなんですよ。
バド・パウエル作曲の厳しい曲想や、それにピッタリな当時のマイルスの鉛色のオープンラッパ。
そして、当時まだ若かったジャズマンが放出するひたむきなエネルギー。
これら様々な要素が相乗効果としてブレイキーのドラミングにオーラとなってまとわりついていたのかもしれませんね。
しかし、オルタネイト・テイクの演奏は炭酸の抜けたビールのようで、同じメンバー、同じテンポ、同じアレンジなのに、どうしてこうも感じる雰囲気が違うのだろう。
奇跡的な演奏をとらえた音源なのかもしれませんね、《テンパス・フュージット》のマスターテイクは。
関連記事
>>マイルス・デイヴィス・オールスターズ vol.1
>>モーニン/アート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズ
>>チュニジアの夜/アート・ブレイキー