雑想 2015年7月

      2022/10/12

ザヴィヌルが求めたベースライン~ウェザー・リポートのプロセッション

ヴィクター・ベイリーが加入したウェザー・リポートの『プロセッション』を聴くと、けっこうベイリーのベースって、ジャコに似ているなぁと一瞬感じてしまうかもしれません。

ベイリーはジャコとは違ってフレット付きベース奏者だし、音価やスピード感などをとってもジャコとは全然違うにもかかわらず、「けっこう似ている」と感じるのは、ベイリーが前任のジャコを意識していたということもあるのでしょうが、それ以上に、「ジャコのベースラインはザヴィヌルが望んだベースラインだった」ということもあるのではないでしょうか。

ジャコが在籍時、ライヴでジャコが不調の際やフェイクしたプレイに走った場合、ザヴィヌルの左手はキッチリと鍵盤で「正しい」ベースラインを弾くことによってアンサンブルの崩壊を防いでいたことからも、ウェザーの曲のベースラインは、「ジャコのベースライン以上に、ザヴィヌルのベースラインであった」ということが容易に推察できます。

だからこそ、『プロセッション』のいたるところで認められるベイリーが弾く「ジャコっぽいベース」は、じつは「ザヴィヌルが意図したベース」ゆえに、ジャコと似ていると感じてしまうのでしょう。

ということは、強烈な個性を放ち、スター性もあったジャコが抜けたことによって、ザヴィヌルはかえって本来自分がやりたかった音楽に立ち還れたのかもしれませんね。

ザヴィヌルがアコーディオンを弾く《リアル・プラザ》などを聴くに、この時期ザヴィヌルが表現したかった音楽は「このあたり」の温度だったのだなと感じます。

そして、キャッチーさは少々薄れたかわりに、かっちりとまとまったアンサンブルは、新しいウェザー・リポートの幕開けに相応しいサウンドだと思います。

ザヴィヌルの左手

ちなみに、ベースラインを奏でるザヴィヌルの手については、こんな記述もありました。

ジョーの左手には欠点がない。彼がキーボードを演奏するときのアプローチは、まるでボクサーみたいなんだ。コブラのような手の速さで、ボクサーのような演奏をする。だから、ジョーに立ち向かう方法を知らなければならない。音楽的にもリズム的にもね。彼は普通のピアノ・プレイヤーではない。つまり、彼はドラマーのようにピアノにアプローチしているということだ。
(ブライアン・グラサー『ザヴィヌル~ウェザー・リポートを作った男』より)

なんですよね。

だから、ジャコのベースラインも器用に(コブラのような手の速さで?)奏でられたんでしょうね。

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コルトレーン派のテナー奏者の表現スタイルあれこれ

パウエル派、パーカー派という分類があるように、コルトレーン派というテナーサックス奏者の演奏スタイルを分類する言葉がある。

言うまでも無く、ジョン・コルトレーンの奏法、あるいは精神性を継承しているテナー奏者たちが「コルトレーン派」とされるわけだが、黒人と白人では面白い傾向の違いがある。

アーチー・シェップ、アルバート・アイラー、ファラオ・サンダース。
彼ら黒人テナー奏者は、後期コルトレーンの影響が強い。
つまり、インパルスに移籍後にだんだんとフリージャズ色が強くなってきている時期のコルトレーンのスタイルだ。
しかも、彼らは演奏法そのものよりも、コルトレーンの精神的なところを強く継承している。

いっぽう、白人テナー奏者はどうだろう。
デイヴ・リーブマン、マイケル・ブレッカー、トム・スコット、スティーヴ・グロスマン、ボブ・ミンツァー、ボブ・バーグ、ビル・エヴァンスら白人テナー(ソプラノ)奏者は、黒人テナーマンとは違い、精神性よりも、テクニカルな奏法を解析・研究し、己のスタイルの礎にしている。

影響を受けているコルトレーンのスタイルも、フリー的は過激路線に走る前の、たとえば、《ジャイアント・ステップス》のようなコード激変曲に対してのロジカルなアドリブアプローチや、モード曲を演奏するときの発想や技術的なところを取り入れている。

例外的に、精神性のほうの影響を強く受けているのではないかと思える白人テナー奏者がいる。
ガトー・バルビエリだ。

彼は自作のサックスケースをコルトレーンにプレゼントしたほどのコルトレーン信者だ。

ガトーの演奏、咆哮は、後期になってより一層過激さを増してきた時期のトレーンのスタイルを彷彿とさせるものがある。

未聴の方は、一度は聴いてみよう!

フォー・リアル ハンプトン・ホース

ハンプトン・ホーズの隠れ(?)名盤『フォー・リアル』。

なんたって、ベースがスコット・ラファロですから。

「ビル・エヴァンスと組む前のラファロは、ピアノトリオでどういうベースを弾いていたの?」という興味も満たせることでしょう。

エヴァンスとの共演があまりにも有名なので、スコット・ラファロといえば、「メロディアスで音数の多いベーシスト」というイメージが強いのでしょうが、それだけがラファロのスタイルではありません。

むしろ、それ以前に、「ラファロのベース=太くて豪快」ということを知るには丁度良いアルバムだと思います。

このように、しっかりとした土台があったうえで、さらなる「次」を求めて、エヴァンスとのインタープレイと呼ばれる新たなるスタイルに突入していったのです。

▼収録曲
1. Hip
2. Wrap Your Troubles In Dreams
3. Crazeology
4. Numbers Game
5. For Real
6. I Love You

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