雑想 2020年1月
2022/02/19
インドネシア出身のピアニスト ジョーイ・アレキサンダー
インドネシア出身のピアニスト、ジョーイ・アレキサンダー。
まだ16歳。
なんだか若い頃のハンコックにちょっと似ているところもあるその風貌ですが、そのあどけなさからは信じられないほどスケールの大きなピアノを奏でます。
単に楽器操作が巧みというのではなく(もちろん巧いのだけれど)、それだけでは、ハンコックやウイントンには認められない。
そう、彼のピアニズムは、彼独自のストーリーをピアノで描けるところ。
一歩先を見据えて、ではなく、かなり先の展開までをも考え、その地点をめがけて、巧みにストーリーを構築することが出来るところ。
このあたりが、十代半ばにして、すでに大器の予感を漂わせているんですね。
動画にもアップされていた、ウイントン・マルサリスとのジャムセッション(?)では、わりと普通というか無難な演奏に終始していましたが、自己のリーダー作では、思う存分、自らが思い描く世界を奔放に表現しています。
さて、彼のリーダー作『ワルナ』は、ラリー・グレナディアのベース、ケンドリック・スコットのドラムが、時に支え、時に煽る。
スリリングな展開から、奥行きのある演奏まで、なかなか聴きごたえのあるピアノトリオです。
ライヴ・イヴルなジャズジャパン
今月号のジャズジャパン。
マイルス特集。
なんと、マイルス・デイヴィスの『ライヴ・イヴィル』が特集されている。
マイルスの諸作品の中では忘れがちなアルバムではありますが、いい~アルバムであることには間違いない。
時代は変わる?!
なんといっても、マイルスのエレクトリック期のアルバムの中でも、ほとんど紹介されたりすることのなかった、ある意味寄せ集め的な内容のこのアルバムが大きく取り上げられているのだから。
なんというこっちゃ。
うれしい限り。
ちなみに、私はずーっと「ライヴ・イヴィル」と書いたり言ったりしていたけど、最近の表記は「イヴル」な模様。
過去に書いたものの中で、なおせるものは直さなきゃ。
憧れのオーネットとの共演をかなえたヨアヒム・キューン/カラーズ
ピアニスト、ヨアヒム・キューンと、オーネット・コールマンのデュオによるライヴアルバム『カラーズ』。
これは1996年にオーネットとキューンが行ったライブ音源がアルバムになったもの。
2人の共演が実現した経緯は、こんな感じ。
ヨアヒム・キューンのエージェントを務めるジュヌヴィエーヴが、フランスに来ていたオーネットに会い世間話をしていたところ、オーネットは「何か君の好きなレコードをかけてよ」と言ってきたので、ヨアヒムのレコードをかけたそうです。
するとオーネットは、「このピアノはいいね」と気に入ったみたいなんですね。
「だったら、一緒にやってみれば?」とジュヌヴィエーヴは共演を薦めてみると、オーネットは快諾。
その後、ベルリンのジャズフェスティヴァルでたまたま出くわしたオーネットとヨアヒムですが、オーネットはヨアヒムに「一緒にやろう!」と話しかけてきたそうです。
その後のイタリアのヴェローナのジャズフェスティバルで実現したのが、『カラーズ』のデュオだったのです。
その時の観衆は、なんと1万2000人。
もちろん、彼ら目当てでやってきたお客さんではなく、その後に出演する、ジョン・マクラフリン、アル・ディメオラ、パコ・デ・ルシアのギタートリオを目当てに来ていたお客さんが大半だったみたいですが、それでも大観衆の前で演奏することが出来たわけです。
その時の演奏は録音されており、音源を聴いたオーネットはたいそう気に入って、ヨアヒムに電話。
「君さえよければCDにしたい」
もちろん、ヨアヒムはOK。
なにしろ、憧れのオーネットとの共演がアルバム化されるわけですから。
一見、ヨアヒムのクラシックっぽいピアノとオーネットの音楽には共通性があまり感じられないかもしれませんが、じつはヨアヒムは少年時代からオーネットのファンだったのです。
西ドイツに亡命する前、東ドイツのライプチヒに住んでいた少年時代のキューンは、最初はマイルスやコルトレーンに熱中していたようですが、だんだんと和声やコードチェンジを使わずに演奏する方法を考え始めるようになりました。
それが15歳の頃。
その時に出会ったのが、オーネットコールマンの『ジャズ来るべきもの』で、このアルバムを聴いた瞬間に「これだ!」という天啓が下りてきたようなのです。
それほどまでに彼に影響を与えたオーネットからのアルバム化の申し出に断る理由などありません。
晴れて『カラーズ』というアルバムが生まれたわけです。
ちなみに、このディオのライブの後も、コールマンとヨアヒムは共演をしています。
オーネット・コールマン・カルテット。
ドラムがオーネットの息子のデナード・コールマン、ブラッド・ジョーンズがベースと言う編成にヨアヒムがピアノとして参加するという形です。
その際、ヨアヒムは、精力的なオーネットの創造意欲を目の当たりにします。
なんとオーネットはコンサートには全曲新曲で臨むんですね。
コンサートのために最低でも10曲は作曲するオーネットの恐るべき想像力とバイタリティー。
リハーサルするごとに新曲が増えていき20曲ぐらいコンサート前に新しい曲をリハーサルしなければいけなかったみたいなので、結構大変だったみたいですけれども、ヨアヒムにとっては貴重な体験になったようです。
しかも、オーネットはリハーサル中はずっとテープを回しっぱなしにしていて、まるでコロムビア時代のテオ・マセロがプロデューサーの時のマイルスみたいな感じですが、オーネットは、回しっぱなしにして録音した100時間以上のテープを聞き返し、アイデアを煮詰めていく手法をとっていたようです。
このような、いくつになっても尽きることのないオーネットの創作意欲と、憧れのオーネットと共演することが叶ったヨアヒム・キューンの音楽的交歓が『カラーズ』で楽しめるわけです。
オーネットの音楽は芯が単純で太いので、いつの時代もオーネット以外にはありえないテイストを持っているのですが、共演者やバックのサウンド次第でアホっぽく聞こえたり(誉め言葉です)、頭良さげに聞こえたりするものですが、『カラーズ』はもちろん後者。
『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』で頭クラクラさせている方も、たまには理知的(?)なオーネットで沸騰頭をクールダウンさせてみるのもよろしいのではないかと思います。
もちろん血液沸騰ミュージックの『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』もすんばらしい作品なんですけどね。