男はすべからくダンディなドスケベであるべし
迷惑ジジー
以前、朝のワイドショーでも取り上げられていた記憶があるんだけど、最近、うるさい迷惑ジーさんが増えてきているようですね。
先日、知り合いから聞いた話だと、コンビニで店員が中国人だという理由で、「ここは日本だ、中国に帰れ」みたいなことをレジで延々と怒鳴っているジーさんがいたのだそうです。
言われてみれば、私も、コンビニのカウンターで宅配便の荷物がどうのこうのと、長々と店員にからむように文句を言っているジーさんを見たことがあります。そのジーさんと店員のやり取りが長くて、列が出来てしまっていたなぁ。
このような老人が最近増えているのような気がする今日この頃です。
定年退職、年金暮らし、朝から晩まで暇、やることなし。
年とともに気が短くなり、絶対に逆らえない立場の人間を見つけては憂さ晴らしってか?
そういうジーさんが増殖していくと、今後ますます客商売の店は仕事やりにくくなるでしょうね。
石井さんを見習え!
もちろん、すべてのご老人がそうだということはないのでしょうが、コンビニで外国人相手に絡むようなジーさんは、「石井信平さんを見習え!」と言いたいですね。
それはともかく、まずは見てくださいよ、この写真。
仲睦まじいご夫婦。
このお二人は、故・石井信平さんと、石井さんの奥様です。
8年前の正月に鎌倉の海岸で撮影しました。
石井さんは、かつて私が雑誌『宝島』の編集部にいたときに担当させていただいたメディアアナリストの方です。
月に一度の辛口コラムを執筆してくださっていました。
辛口なんだけれどもユーモアの精神も忘れてはいない原稿を読むのが楽しみで、毎月、石井さんから届く原稿が楽しみで仕方ありませんでした。
年齢は私の親父と同い年なんですが、とても同じ年齢には見えませんでしたね。
なにしろ、ダンディでカッコいいのですよ。
身長は私よりも高い。
私も比較的身長は高いほうだとは思うのですが、その私よりも高く、杖をついてダンディに葉巻をふかす石井さんの姿は、なんというか、明治・大正時代の文豪か、あるいは政財界の大物といった風情でした。
身体が大きいので威圧感があるのかというと、まったくそんなことはなく、とても物腰穏やかでダンディな紳士でした。
誰に対しても柔らかな敬語で接する上に、口調も常に穏やかなので、落ち着いた気分で会話をすることが出来るのですね。
微エロの達人
しかし、単に物腰穏やかなだけではなく、けっこうエッチなんですわ(笑)。
ダンディな石井さんのことですから、卑猥で下品な言葉を露骨に使うことは決してありませんでしたが、石井さんが落ち着いた柔らかな口調で、遠まわしに語る男女の「性」の話は、逆にその奥ゆかしさゆえに、醸し出るムードがかえってエロティックなんですよね。
男女の秘め事に関しての会話が、まるで『源氏物語』のような古典を読んでいるような香気あふれるムードに塗り替えてしまうところが石井さんの凄いところ。
もしかして、学生時代は京都の大学に通っていたことと関係あるのかな?とも思いましたが、ま、とりあえず学生時代は、めちゃくちゃモテていたようです。
もっとも石井さんと私は、男同士で、このような話をそうしょっちゅうしていたわけではありませんよ。
何度か石井さんを西麻布にある私がお気に入りだったバーに連れて行ったことがあるのですが、オブラートにくるんだエッチな会話は、そういうところでするわけです。
照明を落とし、シンプルでセンスの良い内装の店内、ボサノヴァが低く流れる中、カウンターごしの美人ママと3人で、ひっそりとそのような会話をするわけです。
石井さんは葉巻をくゆらせ、葉巻の甘い香りが、これまた「微エロ」なムードを心地よく増幅していました。
石井さんは特にそのママのことを落とそうと思っていたわけでは全然なかったようですが、それでも、とても女性相手のトークが巧いのです。
女性を歓ばせる洗練されたトーク技術を持たれた方で、それは会話の引き出しだけではなく、話し方の抑揚や、声のトーン、間、目線の動かし方など、様々な「大人の男性かくあるべし」なダンディズムを石井さんから学ばせていただきました。
もっとも、いくつになっても根が幼稚でオコチャマな私は、石井さんが醸し出すダンディなムードや、女性との会話における話の運び方などを真似られるわけもなく、単に知識として頭の中にしまってあるだけですけれど。
ダンディなドスケベ
そんな石井さんと奥さんのツーショット写真、鎌倉の砂浜を歩かれるお二人の姿が、あまりにも良い感じでしたので、ついパシャッ!と撮影させていただきました。
時代は平成ではなく、なんだか小津安二郎の映画の時代のようにも見えてしまうほど、良い雰囲気なんです。
奥様は、たしか私と同い年か、少し年下なので、25歳前後の「年の差結婚」だと思うのですが、素敵ですね。
今度は、これぐらいの「年の差婚」をしようかしら(笑)。
お二人のことについて、あまり立ち入ったお話を興味半分で聞くのも野暮だなと思いつつも、年の差結婚にちょっと興味があった私は、奥様に「石井さんって、ダンディでカッコいい方なんですけど、普段家ではどんな感じなんですか?」みたいな質問をしてみました。
すると、一言、「ドスケベ(笑)」。
「え~、そうなんですかぁ?」と返すと、「もう、“超”がつくほどですよ」と笑顔で答えてくれました。
うーむ、男はドスケベでなければイカンな!と、その時強く思いました(笑)。
スケベといっても、おそらく我々男性が思い描く「露骨スケベ」、たとえば電車の中の痴漢や、オフィス内でのセクハラ行為などと、女性が思い描く「スケベ」とはかなり違うことは当然のこと。
おそらく女性が「スケベ」という短い一言に集約する「オトコの価値」というものは、我々オトコが表層的に思い浮かべる「皮膚or粘膜接触」的な浅薄なものではなく、それはそれは広く深くミステリアスなものに違いありません。
よって、笑顔で女性が「あの人スケベですから」と言わせるだけのものを持つ石井さんは、「オトコ」として、かなり大したものなのだと本能的に感じたものです。
残念ながら、この写真を撮影した翌年の夏に石井さんは他界されてしまいましたが、今でも私の中で石井さんは生き続けているように思います。
なにしろ石井さんは私の目標ですからね。
「65歳までに俺は石井信平さんのようなダンディなオヤジになれるのかどうか?」ということが今後の私の課題なのです。
もっとも私の場合は、まだ時間がありますけど、それ以前に暇ですることがなく朝っぱらから町中をウロウロしてコンビニやスーパーの店員にカラむようなジーさんたちは、早急に石井さんを見習ってダンディな紳士になって欲しいですね。
ま、無理かもしれないけど。
しかし、せめてエロジジーからは脱却して、女性から笑顔で「ドスケベ」と言われるようなカッコいい男にはなって欲しいものです。
ま、無理かもしれないけど。
「ワル」ぶるな、ダンディになれ
ひと昔前は、雑誌『LEON』の「ちょいワルおやじ」の「ちょいワル」という言葉が一世を風靡したけれども、その背景には、男は他人から「ワル」とみなされることに誇りというか、オトコとしてとりあえずはヒエラルキーの下層に位置していないということに安堵を感じるからなのだと私は考えています。
そして、そのようなオヤジは、飲み屋などで若者相手に「俺も昔はワルかった」などと説教しながら悦に入ったりしているようですが、「ワル」とかそういうムードって自然に醸し出るものですから、自分で自分をキャラクタライズした時点でザンネンさんの仲間入りでしょう。
そういう人たちも、ま、無理かもしれないけど。
と、書いていながらだんだんわかってきたけど、やっぱり万人が石井さんのようなダンディ老人にはなれるわけではなさそうです。
ということは、ワルぶって人に迷惑をかけるようなジジー様たちは、せめて世間様に波風立てずに大人しくしていて欲しいものです。
記:2016/04/03