アメリカン・スプレンダー/試写レポート
2018/01/09
選曲が良い。
ちょっと思い出すだけでも、
レスター・ヤングの《オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリード》
ジェイ・マクシャンの《ブルー・デヴィル・ジャンプ》
ディジー・ガレスピーの《スターダスト》
《オー、レディ・ビー・グッド》
など、素敵な曲の目白押し。
クリーブランドの曇った町並みを背景に流れるジャズは、普段聞いている曲とはまた違った趣きを添えている。
じつは、これらジャズのサウンドが、私を最後までこの映画を観させる潤滑油として機能していたといっても過言ではない。
なぜかというと、私は最後までこの映画、あまり好きになれなかったからなのだ。
いたるところに工夫の凝らされた内容だということは分かる。
ハービー・ピーカー本人が劇中に登場したり、製作過程の現場を覗き見するようなシーンが出てきたりと、映画の進行は一筋縄ではない編集となっている。しかも、スタッフの“内輪受け”レベルの遊びではなく、きちんと鑑賞者を飽きさせず、楽しませるための工夫なのだということも、よーく分かる。
単なる一人の人物のドキュメンタリーに終わらず、きちんと「人生ってやつはなんじゃらほい?」といった深い問題をサラリと重くなりすぎずに考えさせる何かを持っている映画だと思う。
だが、結局は、主役を好きになれなければ、映画の深い部分にまではどうしても感情移入できないわけで……。
私は、主役のハービー・ピーカーという人物と、老けたアラレちゃんのようなルックスをした彼の妻・ジョイスのことをどうしても好きになれないのだ。
「ここだけはどうしても我慢できない!」という要素は特に無いのだが、ルックス、臆病なくせにヘソ曲がり性格、ライフスタイルなど、様々な要素が微妙に少しずつ肌に合わない、ゆえに感情移入しにくい、平たく言ってしまえば、肌が合わない。そんな感じ。
劇中の主要人物を好きになれなければ、どう頑張っても映画自体も好きになりにくいわけで。
しかし、私にとってはそんな映画だったにも関わらず、劇中のいたるところに流れるジャズが、「うーん、席を立とうかな」とは思わせないでくれた。
ジャズがふんだんに用いられるのは、主人公のハービー・ピーカーがジャズのレコードの膨大なコレクションを持ち、なおかつレコードのレビューを書いて副収入を得ていることと関係ある。
個人的に、いちばんクスッと笑ったところは、妻に向かって「(オーネット・)コールマンのレコードはどこへやった!原稿の締め切りは明日なんだぞ!」と探し回るシーン。
べつにどうってことの無いシーンなのだが、私の好きなオーネットの名前が出たことが少し嬉しく、かつ、彼はオールド・トラディショナルなジャズだけではなく、オーネットのような、(当時からしてみれば)ちょっと進んだジャズも聴いていることに、多少なりとも親近感を覚えたからなのかもしれない。
以下、簡単にストーリーを。
舞台は、オハイオ州はクリーブランド。
主人公は、ハービー・ピーカーいという男。実在の人物だ。
ハゲ、疑い深そうなギョロ目、皮肉屋、神経質、誇大妄想の傾向アリ、妻には2度逃げられている。
職業は病院の書類係。
タイトルの“スプレンダー(輝き)”とは裏腹な、冴えない日々を送っている彼。
そんなある日、友人の紹介で知りあったロバート・クラムと意気投合し、自分の日常をコミックにすることを思いく。アンダーグラウンド・コミックの旗手となっていたロバートに作画を頼み、コミック『アメリカン・スプレンダー』を創刊する。
作品は反響を呼ぶ。また、読者のジョイスとも結婚する。
本の宣伝のためにTVのトークショーに出演したつもりが、笑いのネタにされたり、家事をロクにやろうとしない怠け者だった妻は急にボランティアに目覚め、パレスチナやイスラエルといった紛争地の子供を救いに取材旅行に行ったり、なかなか帰ってこない妻からかかってきた国際電話に「早く帰ってこい」と懇願したり、ガンになったり、自身のガンとの闘病生活をコミックにし、見事ガンを克服し、出版した『我々の癌の年』がヒットしたり、母親のいない女の子を養女として迎えたり、で、病院を定年で退職して、周囲のスタッフから「おつかれさま。ごくろうさま」と祝ってもらったり。で、彼は今でもコミックの原作を書き続けている、といったお話し。
映画がクランクアップした直後に、ピーカー本人は癌が他の場所に転移して再発したという話を先日聞いたが、本当か…??
観た日:2004/05/07
movie data
製作年 : 2003年
製作国 : アメリカ
監督・脚本 : シャリ・スプリンガー・バーマン/ロバート・プルチーニ ほか
出演 : ポール・ジアマッティ、ホープ・デイヴィス、ジュダ・フリードランダー、ジェームズ・アーバニアク ほか
配給 : 東芝エンタテインメント
公開 : 7月10日より公開
記:2004/06/26