超時空メルヘン「ババジ君」第3話
第2話からのつづきです
ところ代わって、ここはデリーの街の郊外です。
デブヒゲ搭乗の「赤カブ号」が大爆発を起こしたころ、既にババジ君はデリーの街の郊外を全速力で駆け抜けていました。
後方で何やら物凄い音と熱い風を感じましたが、そんなの関係ありません。ババジ君の頭の中は逃げることでいっぱいだったのです。
ババジ君は速度を緩めて後ろを振り返りました。
追っ手は誰も来ません。
「ここまで来れば大丈夫か。」
そう思ったとたん、ババジ君は急にお腹がすいてきました。
いつもなら、とうにお昼ご飯を食べ終わっている時間ですからね。
ババジ君は周りを見渡しました。
黄土色の広い一本道と、その周り一面は草むらだけ。
遠くの小高い丘の上には大きな木が一本見えます。
走るのをやめたとたん、ババジ君は猛烈な暑さを感じてきました。
それはそうですよね、今はお昼時。
そして、印度の正午といえば、それはもう暑くて暑くて、畑で仕事をする人など誰一人いやしません。日が陰るまでみな木陰でお昼寝をする時間です。
全身から吹き出るように汗が出てきます。
とりあえず、この焼け付くような暑さから逃れるため、近くにある小高い丘の木までダッシュで駆け上りました。
時速700kmで走ったときに受ける風が心地よく、ババジ君は暑さを忘れましたが、それも一瞬の出来事、すぐに大きな木の下に辿り着きました。
この木の下にしばらくいれば、暑さをしのげるわけですが、問題は食い物です。
この木は何の木なのかはババジ君には分かりませんでしたが、少なくとも野菜や果物の木ではないようです。
もうババジ君は本当にお腹がぺこぺこなので、どうしていいのか分からず、やけくそ気味に、
「おなか、すいたー」
と叫びました。
叫んだところでどうなるというわけでもありませんがね。
叫びついでに、木の幹を思いっきり蹴っとばしました。
「キャッ」と木の上で声がしました。
ついで、
「何するね!」と木の上から女の子の声が聞こえました。
驚いて上を見上げると、木の太い枝に女の子が腰掛けて、こちらを睨んでいました。
「ごめん、誰もいないと思ったんだよ。」とババジ君。
ビュン!という音とともに、女の子は地上に飛び降りて来ました。
「あんたば、さっきんから、叫ばらってからり、蹴っとるんがーで、な~んも忙したりからね。」
何だか聞いたことの無い言葉ですが、何となく言っている意味は分かります。
背格好は、ババジ君と同じくらい。ババジ君よりちょっと年上かもしれません。
でも、よく見ると、彼女の服装はとてもヘンです。
ババジ君の村やデリーの街の人々のように、一枚の布をアレンジした簡素な服装を着ているのではなく、何だかキラキラ光る白い布の上にヘンテコリンな紋様が入った服装を来ています。長袖だし、首やら手首やら足首までジャラジャラとキラキラ光るアクセサリーを何個もつけています。はっきりいってとても暑そうです。
少なくとも、この国の人ではないようです。
ババジ君は、
「君、だあれ?どこから来たの?」
とその女の子に聞くやいなや、バシッと強烈な張り手をくらいました。
つづく
⇒第4話
画:やぎゆま