超時空メルヘン「ババジ君」第6話
第5話のつづきです。
いっぽう、こちらは産土号(うぶすなごう)です。
産土号の機体の揺れが一段とひどくなってきました。
「隊長、何かすごいですねぇ、この揺れ。」
「念のためだ、現在位置を確認しろ。」
ユニワノイナホはコクピット中央のモニターに目をやりました。
「うわぁ、何だか物凄く変な方向に流されてしまってますよ!予定コースよりもかなり北北西に流されてますね、このまま行けば死辺離夜(シベリヤ)だ。」
「で、現在位置は!?」
「卑魔螺野(ひまらや)の上空です。でもおかしいな、電波誘導は順調なはずなんですがねぇ。」
「では、明石の観測所に連絡をしてくれ。」
わかりました、とユニワノイナホは首を傾げながら無線機をしばらくいじっていましたが、やがて真っ青な顔になって叫びました。
「ジャミング(電波撹乱)です! 明石へは連絡が取れません!!」
隊長は眉を吊り上げました。
「何!?ジャミングだと! ユニ、電波誘導航法装置は故障していないのだな?!」
「は、はい。正確に作動しています。」
「ではすぐに、電源を切るんだ。」
「へ?電波誘導航法装置の電源をですか?」
「そうだ、電源を切って手動航法に切り替えるのだ。」
ユニワノイナホは、怪訝な顔をして口をぽっかりと開けています。
隊長は続けました。
「いいか、この近くに強力な電波を発している何物かがいるのだ。それが人工の電波なのか、自然のイタズラなのか、今は分からん。ただ確実に言えることは、すめらのみことⅡ世号よりも強力な電波だということだ。そのために、自動航法装置がそちらの方に反応してしまっているに違いない。」
「なるほど、わかりました。では手動モードに切り替えて私が操縦しましょう。」
「慎重にな。付近に何かが潜んでいるやもしれん、念のために自動哨戒モードのレベルを上げておけ。」
産土号は機体を傾け、ほとんどUターンに近い形で進路を転換して、猛烈な勢いで加速、あっというまに空の彼方の光る点になりました。
この様子を地上から観測している存在には、もちろん隊長もユニワノイナホも気付くすべはありませんでした。
ところかわって、ここは明石東経135度の観測所です。
砦の中の一角に、ひときわ大きな建物があります。
高床式の質素な木造建築ですが、この中には超ハイテクな機械がいっぱい詰まっています。機械の殆どが電算機です。
電算機、つまりコンピュータのことですね。
いくつもある電算機の中に神武型電算機という、ひときわ大きな電算機がありまして、通信、兵器や物資の補給などを管理しています。もちろん先程飛び立った産土号の航路などの管理もこの神武型が行っています。
神武型電算機には、数人の女性操作員(オペレーター)が交代で操作をしています。
皆さんはコンピュータといえば、半導体やシリコン・チップのようなものを連想されるかもしれませんが、この時代のコンピュータはちょっと違います。
だって、後世の歴史家が定義するところの弥生時代に値する時代なので、シリコン・チップはおろか、ダイオードもトランジスタも真空管すら存在しない時代なんですよ。
その代わり、これらに取って変わるものがこの時代には存在しました。
三原山や富士山のように霊験あらたかな山で、ときおり採掘される“玉石(たまいし)”と呼ばれる不思議な石がありまして、人間の感情や自然現象に敏感に反応するのです。
大きさはまちまちですが、全て完全な球体で、ある石は発光したり、ある石は奇妙な音を発したりとそれぞれ石によっても特性があるようです。
この石を何個か並べることによって、様々な超自然的な力を発揮します。
天気や地震や火山の噴火など、もっぱら生活に密着した用途に使われることが多いのですが、大量の玉石をある法則に乗っ取って配合すると、現代で言うパソコンのような機能を持つことが可能となります。ただ、この電算機を作ることが出来る人間は、“極玉師(きょくぎょくし)”というごくごく限られた技能集団だけで、誰もが作れるというわけではありません。
また、操作の方も誰もが出来るという訳でもなく、これもごくごく一部の限られた特殊な能力を持った人間でなければ命令通り動いてくれないのです。
何故か女性の方がこの電算機を操れる能力の持ち主が多いようで、明石の基地でも殆どの電算機が女性操作員によって動かされています。
その操作員の中の一人、アヤナギノ・サワヤミコは苛立っていました。
つづく
⇒第7話
画:バビロン