ブラック・スネーク・モーン/試写レポート
映画そのものがブルースだ!
さきほど、『ブラック・スネーク・モーン』というタイトルの映画の試写を観てきました。
このタイトルにピン!となった方は、かなりのブルース好きとみた。
そう、このタイトルは、ブラインド・レモン・ジェファーソンの曲名です。
彼は、テキサスの盲目のブルースマン。
後にシカゴに移住して亡くなります。
もっとも、映画の舞台はメンフィスですが(笑)。
しかし、なかなか良かった。
映画そのものがブルースだった。
うーん、ブルース、ブルース、すげぇドぶるーす。
昭和の演歌ブルースとか、やくざとか港とか女とかの日本人が勝手にイメージづけちゃっているブルースではなく、南部、ジョン・リー・フッカー、スライドギター、ライトニン・ホプキンス、黒人の爺ちゃんが煙草くわえて……な、ブルース。
うーん、カッコよかった。
今日は一日中ブルースを聴くことでしょう。
内容に関しては、今興奮して詳しいことはかけそうもないので、落ち着いたタイミングを見計らって、今度書きます。
ブラック・スネーク・モーン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
記:2007/08/06
ブルース好きには、たまらない映画です!
昨日、試写会で観た『ブラック・スネーク・モーン』ってどんな映画?と聞かれると、一言で説明するのが、とても難しいです。
たとえば、「老人が若い女性を鎖で繋ぎ、数日、監禁する話だよ」というと、「何じゃそりゃ?変態プレイ?」と受け取られる可能性高そうだし、もうちょっとディティールを付け加えて、「奥さんを自分の弟に寝取られた老人が、セックス依存症の女性を鎖で繋ぎ、数日監禁する話だよ」と書くと、さらに「変態プレイ」な妄想度がアップするに違いない(笑)。
さらには、「奥さんを自分の弟に寝取られ、その弟の胸ぐらをつかみ、割れたビール瓶を突き立てた老人が、白人の彼氏が出兵した後は、ムキムキボディの黒人と情事を重ね、さらにパーティでラリって、彼氏の友達のアソコを小さいねと侮辱したらボコボコにぶん殴られて、血まみれの状態で失神した状態で道に捨てられていたセックス依存症の金髪女を、鎖で繋ぎ、数日監禁する話です」と書くと、さらに、エグさも加味されて「どういう映画じゃい?」になると思います(笑)。
スマン、これは、読者の興味を掻き立てるために、意図的に情報をカットして書いているんだけどさ、こう書くとどうだろ?
元ブルースマンだった初老の男。今はまじめに畑で農業をしている。しかし、奥さんを自分の弟に寝取られ失望の日々を送っている。そんな彼は、ある日、血まみれになって自宅近所の道に横たわっていた女性を家に抱えて帰り、介抱する。しかし、その女性は、小さい頃のトラウマが原因でセックス依存症。おまけに、クスリをやってぶっ飛んだ後な上に、街では評判の「ヤリマン」。まだ怪我も熱も癒えていないのに、夢遊病者のように、家の中や畑の中をさ迷う。そんな彼女の心の中に闇を見た初老の元ブルースマンの彼。彼は、彼女を救おうと決意する。荒療治になるかもしれないが、心を鬼にして、俺は動じないぞ!と決意し、彼女が勝手な行動をとらないよう、鎖を繋ぎ、家の外から数メートルまでしか出れないようにする。ただし、家の中だけだと脚や筋肉も弱ってくるので、時には畑を一緒に散歩したりもする。最初は猛烈に反抗的だった彼女もいつしか、元ブルースマンに心を開くようになり……
と書くと、だいぶ印象が変わってきませんか?
そうなんです。
これは救いの映画なのです。
聖なる映画なのです。
たしかに、文字で書くと、エグかったりオドロオドロしく感じるかもしれませんが、実際はそんなことまったくない。
たしかに、奇妙な話かもしれません。
しかし、ストーリーそのものは、なんの矛盾もなく、そして、説教臭さもなく(牧師の説教がいくつか出てくるんだけどもね)進行してゆきます。
登場人物たちが時折話す「汚らしい言葉」すらも、欠点を持った人間ゆえの愛らしさにに満ち満ちており、猥雑さや下卑た感じはまったくありません。
なにより、主人公の元ブルースマンを演じるサミュエル・L・ジャクソンが渋い!
いやはや、ほんと彼の顔つき、ギターの弾き方、歌い方は、生まれながらにしてのブルースマンなんじゃないかと感じるほど、彼の演技の一挙一動が、いや、存在そのものがブルースしています。
もちろん、彼はこの映画のためにギターと歌を練習したわけですが、まるで、40年前からブルースやってたんじゃないかと思うぐらい、すごく味わいがある。
特にソロで《ブラック・スネーク》の歌を歌ったときの、ひび割れたギターの音と、彼の祈りともとれるシャウトにはク~ッ!!ときたね。
この歪んで、身体が裏返るほどにねじくれたスライドギターのチョーキングは、一見ダーティ、その実、ものすごくピュアで澄んだ世界が奥底に佇んでいます。
そう、まるで、ブラインド・ウイリー・ジョンソンを最初に聴いて心が洗われた感触に近い。いや、ウイリー・ジョンソンほど、声はダミ声じゃなく、むしろマディ・ウォーターズに近い声質ではあるんだけれども、いやぁ、味わい深いです。
それに、ピンクのエレキギターが似合うこと、似合うこと。
ストーリーの中に嫌味なくブルースが挿入され、しかも、そのブルースも極上。
そして、テーマは深い愛と救済。
なんだか最近は、平日にやっている9時とか10時から始まるドラマばかり観ていて、いつしか薄っぺらで表面的な愛の世界に慣れてしまった私にとっては、久々に深い愛情の世界を見た思いです。
ヘンな言い方かもしれないけれども、黒人流のディープで聖なる愛の表現を垣間見た。
ハリウッド映画では、このような愛は決して描けまい。べつに描かなくていいんだけどさ(笑)。
9月1日より渋谷シネ・アミューズにて公開です。
ブルース好きは観に行こう!
これを観て、いいなぁと感じた、すばらしい感受性をお持ちの方は、ブルースを聴こう!
オレがこの映画をいいな!と思った人に勧めたいアルバムは、ズバリ、コレだ!
あははは、なんてベタな!と嗤うなかれ!
これは、いいぞ~。
このアルバムのマディの音世界が、そのまま、この映画に繋がりました、私の場合。
ブラインド・レモンのアルバムよりも、私は、この映画を観終わったら、無性にマディ・ウォーターズを聴きたくなってしまったもんね。
普段は、リロイ・カーとか、ビッグ・ビル・ブルーンジーとか、もっと上品に洗練された都会的なブルースばかり聴いているシテーボーイの私(笑)でも、もっと、グアッ!とディープでコテコテで嘘のない世界が欲しくなっちゃったのね。
逆にいえば、このマディ・ウォーターズのアルバムが大好きな人だったら、『ブラック・スネーク・モーン』を観に行こう。
きっと、ご満足いただけることでしょう。
とくに、あ、これ以上書くと、ネタばれになりそうなので、もうこのへんで止めておいたほうが良いのだろうけど、最後に一言。
ラストシーンが良いのだ!
数秒後に、ストン!ときます。
記:2007/08/07