ボスタング~即席即興ユニット live in 六本木 2001/06/03 

      2022/03/29

bostang

蛍博士という素晴らしいコピーライターがいる。

彼とは、行きつけの飲み屋でたまに出くわす。

気心の知れた仲なので、飲み屋でバッタリ会うと、酒が進み、大いに盛り上がり、二人で悪のりをして暴れてしまい、気が付くと客が帰ってしまって、店には誰もいなくなってしまうといったことがよくある。

ライブハウスが、ギターの弾き語りの人たちを中心に集めたイベントを催すことになった。

私の方にも出演しませんか?という打診があった。

私はギターは弾けないし、歌も苦手だ。

しかし、その日は、弾き語りの人たちばかりの中、また、それを目当てで来ているお客さんたちの前で、馬鹿なことをやるのも面白いかな、とも思った。

だから蛍博士に、「即興でライブをやりましょう。博士は適当に喋ったり騒いだり踊ったり発狂してください。ボクはウッドベースで伴奏つけます。ユニット名は“ボスタング”でどうでしょう?」というメールを送ったら、30秒後に「OK」の返信が来た。

蛍博士にとって、ライブの内容などは二の次で、どうやら、「ボスタング」という言葉に響いたらしい。

さすが、ウルトラセブンで「性の目覚め」を経験しただけのことはある。

ちなみに、ボスタングとは、『ウルトラQ』に登場するエイの怪獣だ。

バックステージ、その日は「メンズ・ヴォーカルデイ」というイベントの日だった。

出演するほとんどの兄ちゃんが、そこらへんの路上に転がっていると言っても過言ではない「ゆずモドキ」な人たちと推察された。

なので、我々のアホバカコンビが、このイベントの中では、良いアクセントになるだろうと思った。

実際、我々の出番はイベントの中盤だった。

きっと、同じような内容のステージになり、単調な流れになることを避けるためのマスターの配慮だろう。

ステージにあがった。私がマイクを取った。

「こんにちわー!!」

客席から、こんにちわー!のレスポンス。

「今日は、ボクたちの“儀式”に来てくれて、どうもありがとう!」

ライブではない、あえて“儀式”ということにする。「音楽」、「演奏」をやるつもりなど、ハナから全くないのだから。

早くも客席から失笑が聞こえてきた。

「赤ぁ~」
「白ぉ~」
「ガダルカナルゥ~」
「ラバウルぅ~」
「愛とはぁ~」
「フランス!」

などなど、私が適当にその場で思いついた言葉に節をつけて連呼。あわせて、ウッドベースを適当にかきむしる。

それに応えるかのように、いや、私の呼びかけを320倍ぐらいに増幅して、蛍博士は、そこから連想される言葉、ストーリーの肉付け、同じ言葉の連呼、絶叫、踊り、ラジオ体操、演説、ファルセットでの歌、屈伸運動、祈り、痙攣などなど、様々なリアクションをしてくれた。

頃合いを見計らって、演奏を中断。

「只今の“儀式”は、“愛”でした。」と、マイクを握って私がMC。

客席から「おおぉぉぉぉ!!!」というどよめき。

すかさず、「次の儀式は、電車の中で出会った可愛い女の子に一目惚れをして、彼女のことをつけ回し、尾行とかをする男の愛の“儀式”です。」とMCをした。

私は、3弦の解放、つまりDの音を基調に、一定のパターンとテンポをキープする。

おもむろに蛍博士が自らを主人公に見立てて、「語り」を始めた。

私がMCで話した概略通り、電車の中で出会った女の子に一目惚れをしたシーンで、全身を使って体を張ったアクションに会場は沸いた。

女の子を尾行して、毎日あとを尾行(つけ)る男。要するにストーカーの話なのだが、「今日も暑い日だった」「太陽が眩しかった」といったように、語りの要所要所に、季節感や天気の描写を盛り込むところがなかなか情緒を感じさせ、犯罪めいた男の異常行動を緩和させている。

女性がレコード屋、いや、CD屋で買ったアルバムをさり気なくチェックする男。彼女が買ったCDは、「ラブ・サイケデリコ」。

「ラブ・サイケデリコなんて聴いてんじゃねぇよぉぉ!!!!」と蛍博士は絶叫。

会場は大爆笑。

蛍博士は、ラブ・サイケデリコがお嫌いなようで。

私は好きなんですけどねぇ。

蛍博士の叫びのタイミングに合わせて、《Lady Madonna~憂鬱なるスパイダー》のベースラインを弾いてみた。

執拗に女のあとをつける男。その足取りを全身を使って表現する蛍博士。

下駄を履いた私も、ウッドベースを奏でながら、蛍博士の足取りにあわせて行進をする。ステージの床面の板と、下駄の歯のぶつかり合いが、規則正しいビートを刻む。

突然蛍博士が痙攣を起こす。私も彼にならってベースを弾きながら痙攣。

二人一緒に仲良く、ぶるぶるぶるぶるぶるるるるるるるるるるるるるるるるる!!

何故かウケる。

蛍博士、ノッてきたようだ。

語り口調がラップ調になる。

よくもまぁ、即興でストーリーを組み立てながらリズミックに喋れるものだ。

しかも、しゃがんだ姿勢から、交互に脚を前に出したり後ろに出したりのアクション付きで。

負けずに私もベースの弦をかきむしった。

しかし、弾きっぱなしも芸がない。

だから、途中で意図的にベースを弾くのを止めたりもする。

このブレイクに、蛍博士はなかなかウマいキメセリフを放つ。

「今日も暑かった。暑い日が続く…」

「もっと男気のあるミュージシャンはいねぇのかぁ!!」などと喚き、我々の前に出演した、渋いブルース弾きの名前を出したりして、「俺が男と認めているのは吉田拓郎と彼だけなんだぁ!」といったことを絶叫する蛍博士。

客席がまたもや沸く。

結局毎日毎日、お目当ての女性をつけ回すが、いつもいつも単なる傍観者。

暑い日は相変わらず続く。で、結局様々な妄想を働かせた男は、家に帰って寝て、それでおしまい。

あっけないオチに、一瞬客席からは拍子抜けの空気が漂ってきたが、すぐに拍手と「イエーイ」の嵐。

拍手ねぇ。

こんなんでいいのかなぁ…。でも、うけないよりはいいか。

ラストは、いつもの18番、《エビのカラダ》で締めて、ボスタングのライブはお終い。楽しかった。

この日の我々のパフォーマンスの模様、ビデオに録画してもらった。

プレイバックをしてみたら、精神病患者の良いサンプルになると思った。

記:2001/11/08(from「ベース馬鹿見参!」)

 

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