ファドという音楽

   

text:高良俊礼(Sounds Pal)

ファド ポルトガル

例えば奄美で歌い継がれてきた唄を“シマウタ”と呼ぶように、世界にはそれぞれ特別に、親しみを込めて固有の名称で呼ばれる“うた”がある。

ポルトガルの“ファド”もそんな“うた”のひとつだ。

“ファド”はポルトガルの首都、リスボンの庶民の間で歌い継がれてきた音楽である。

ファディスタと呼ばれる歌い手と、ギター奏者、そして“ギターラ”と言われるポルトガル独特の弦楽器を操る演奏者の3名で歌われるのが基本形であり、その、切々と歌われる哀愁溢れるメロディーに魅せられるファンは多い。

ポルトガル リスボン

ファドの歴史は古い。

起源は15世紀の大航海時代、ポルトガルが占領した植民地から連れてこられた、アフリカ系奴隷達の音楽や舞踊がファドの原型になったという説もあれば、更にその前の11世紀に、イスラム教徒であるムーア人に占領されていた時代のイスラム歌謡の名残りであるという説まである。

とにかく海洋国家として世界に名を馳せたポルトガルには、占領した国や、あるいは占領された地域からの様々な文化が交流して生まれた独自の文化が花開いていた。

しかし華やかな大航海時代が終わると、ポルトガルは経済的に困窮した暗い時代を迎えることとなる。

暗い世相の中でリスボンの下町で暮らす庶民達は、夜な夜な安酒場へ繰り出し、生活のうさを晴らすために、もの哀しいファドの旋律に想いのたけを託していた。

アマリア・ロドリゲス

このアルバムは、そんなファドの歌い手(ファディスタ)として活躍し、単なる民間芸能であったファドを世界中に知らしめたアマリア・ロドリゲスのベスト・アルバムだ。

地元の人達のために感情のおもむくまま、切々と歌うアマリアの声、その声に寄り添うギターとギターラのしっとりと切ないメロディーのそこかしこに「生活のうた」としてのファドをリアルに感じることが出来る。

日本で暮らす私たちにとって、ファドは「知らない国の、知らない音楽」かも知れないが、ファドはどこかしら自分自身の生活や感情と妙にシンクロする、不思議な懐かしさを覚えさせる素敵な音楽だ。

ファドを知らない人も、一度ジャンルというものを意識せずに、“うた”という大雑把な括りでファドに触れて欲しい。

記:2014/09/15

text by

●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル

※『南海日日新聞』2007年6月24日「見て、聴いて、音楽」掲載記事を加筆修正

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