下駄派。
下駄を愛用している。
というよりも、仕事以外の履き物はほとんど下駄だ。
プライベートでの外出は、スーツに下駄を履いて六本木や渋谷も闊歩することもある。
カランコロンと乾いた音を響かせながら歩くと、嫌が応でも目立つ。だから、血気盛んなお子さん達にガンをよく飛ばされるが、軽く一瞥をくれてやれば、たいがい相手はひるむ。何せ、彼らにとってみれば普通じゃない恰好をした危ない人らしいから。
とにかく、下駄は気持ちがいい。
健康にも良いらしいが、あくまでファッションで履いているので、どうして健康に良いのかについてはあまり詳しくはない。
もちろん、真冬も下駄を履いている。
行きつけの美容院のネエちゃんたちに、必ず「冬でも下駄なんて寒くないですか?」と聞かれるが、意外にこれが寒くないのだ。
もちろん履いた瞬間は冷んやりとして冷たいが、これが逆に気持ちが良かったりする。枕の下に手を入れた冷たい心地よさに通じるものがある。
しばらくすると、木の温もりが直に足のウラに伝わってきて暖かくなってくる。床暖房が効いたフローリングの床の上で裸足で立っているような心地よい暖かさを感じることが出来る。
もちろん、頑なに下駄しか履かないゾとこだわっているわけではなく、いくら履いても木が暖かくならないほど寒い季節になれば、下駄以外の履物も履く。
さすがに2月ぐらいになるとスニーカーを履くことのほうが多い。
一年に一足のペースで下駄を履きつぶしている。
一年も履くと下駄の歯が摩耗してしまうからだ。
特に銘柄や材質にはこだわらないので、近所のスーパー等の花火大会用コーナーで陳列されている下駄を買って履いていている。値段も3000円弱で、まぁ丸一年お世話になることを思えば、安いものだと思う。
今年も例に漏れず、昨年の7月に買って愛用していた下駄もそろそろくたびれ始めたので、下駄を新調しようと近所のスーパーへ顔を出してみたが、今年は置かれてなかった。
仕方がないので、近所の丸井を覗いてみた。
花火用の浴衣フェアのコーナーにあるにはあったが、高い。5800円もする上にサイズが小さい。私の足のサイズは27.5だが、売られていた下駄のサイズは24がせいぜいなところだろう。今時こんな小さい小人使用のサイズを丸井で売り出したって売れるハズねぇだろ、本当に売る気があるんかい!と憤慨しつつも、炎天下の中、汗だくになりながら近所のデパートを数件回った。
インフォメーションのカウンターで「下駄ありますか?」と聞くと、「ハイ、特設会場の浴衣コーナーにごく僅かではありますが、置いております。」と案内され、その売場を覗いてみる。
ところが草履しか置いてないではないか。あるいは畳の藺草が敷いてある草履タイプのもの。しかもさすがデパート、値段が9800円以上のモノしか揃えていない。
あのねぇ、受付のネエチャンよ、これは下駄じゃなくて草履・サンダルというものなんだよ、と思いつつ売場の人に「下駄は置いてないの?」と尋ねると皆一様にイヤな顔をするのは何故なのだ!?
仕方なく、実家の近くの大きな商店街に顔を出してみる。靴屋が2軒あったはずだ。
両店とも置いていなかった。下駄はないの?と尋ねると、ここでもイヤな顔をされた。何故なのだ!?
諦めきれずに近所の呉服屋に顔を出してみた。あった!
しかし、馬鹿の大足サイズの俺にはいかんせん小さいサイズしか揃っていなかった。
ここもダメなのかぁと落胆した俺の表情は相当お店の人にも悲しそうに映ったに違いない。
たまりかねて、この先信号を二つ渡って左に下駄や履き物の専門店がありますので、そちらを覗いてみたらいかがですか?と教えてくれた。
急いで教えてもらった店へ行く。
店の外は普通の靴がディスプレイされていたが、店の奥にを覗くと、ある、ある、ある!下駄の山、下駄のオンパレード!!
小さいサイズから、こんなサイズ誰が履くの?と思ってしまうほどの巨大な下駄まで無造作に積み重ねられている。
やった!
ボク下駄人間、なのに下駄売ってる店がない、それはとても悲しい、さんざんこの炎天下の中、汗だくになりながら様々な靴屋を探し回ったのだが、どこにも置いていなくて、やっとここに辿り着いた、もうこの店最高あるよ、贔屓にするね、なぜかというと下駄がたくさんあるから、などとワケの分からんことを一気に捲くしたてたら、店のおじさんもおばさんも苦笑していた。
ピッタリのサイズを見繕ってもらって、下駄の緒が足にピッタリフィットするように丁寧に調整してもらう。
履いていた靴はビニール手提げに入れて、そのまま下駄を履いてカランコロンと帰路についた。炎天下の中、カランコロン。汗はダクダクに溢れ出てくるが気分は最高だ。
近くの天丼屋に入って大盛りを一気にかき込み、向かいのマックでビッグマックとシェイクを貪り食いました。
何か下駄を履くとエネルギーが湧いてくるんだよね。食欲も。
家に帰ると、ちょうどお昼時だったので、岩手県は水沢名物の冷たい卵麺が容易されていて、麺つゆに生姜とたっぷりかけて一気にズルズルと食べました。昼寝をして風呂に入って、スイカを食べて、ライブに出演しました。その時もやっぱり下駄。新調した下駄はやっぱり気分がいいので、演奏も好調だった。
履き心地の良い下駄が手に入った嬉しさで、とっても幸せな一日でした。
おしまい。
記:1999/08/06
追記
そういえば、これを書いた直後に北海道旅行へ行った。
もちろん下駄で。
空港の荷物検査で何故俺だけ厳重に持ち物チェックをされるのだ!
金属探知機の棒で念入りに俺の体中をまさぐるのは何故なのだ!?
下駄ってハイジャックの凶器になるのかな?まあ確かに下駄で殴られれば痛そうだけど……。
今度海外行くときも試してみよう。長時間のフライトは足が浮腫んで疲れますからね。今まではゴルフボールで足の裏を刺激したり、機内用スリッパを持参していたけれども荷物になってしまうからね。
記:2000/01/30
追記2
映画観るにも下駄はいいっすよ。
映画館の座席で2時間近くも同じ姿勢でじっとしていると足が浮腫むからね。
記:2000/01/30