『GOEMON』試写会記

   

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元宇多田ヒカルの旦那さん紀里谷和明監督の新作『GOEMON』の試写会に行ってきました。

前作の『キャシャーン』よりは全然良かった(笑)。

というか、江口洋介演じる五右衛門の運動能力、戦闘力、闘い方からして、すでに人間を超えたキャシャーンですから(笑)。

あとはストーリーの展開するテンポを比較すれば、まったりキャシャーンよりも、サクサク五右衛門のほうが、個人的には楽しめたというわけで。

時代考証や歴史性などを綺麗さっぱり大胆に無視しまくった、中世ヨーロッパとアジアンテイストを混ぜこぜにした建築、衣装、美術も、まぁ良かったんじゃないかと(笑)。

まるで戦国時代の建築はイタリアの教会。
大坂の城下町(ダウンタウン)はタイか台湾。
戦場は中国ではないか(笑)。

しかも、建物の中では靴を脱がないし(笑)。

これぐらい時代考証を滅茶苦茶に無視しまくってくれると、逆に爽快。
中途半端な時代考証で「らしく」見せていつつも、本質はどこまでもベッタリと「ホームドラマ」な昨今のNHKの大河ドラマよりも数倍いい(笑)。

昨日、女房にこの映画のキャスティングを話したら「紀里谷監督って、前のキャシャーンの寺尾聰もそうだったけど、自分にとって“お父さん”みたいな、一癖ある濃い男性俳優を起用するのが好きだよね
とのこと。

ちなみに、今回は、

千利休―平幹二郎
豊臣秀吉―奥田瑛二
徳川家康―伊武雅刀

です。

お父さんというほどの年齢ではないけど、

服部半蔵―寺島進
織田信長―中村橋之助

が面白いキャスティングだと思った。

あとは、前回のキャシャーンにも起用した、要潤が石田光成(ちなみに妻役もキャシャーンに出ていた佐田真由美)。

ガレッジセールのゴリが猿飛佐助。
霧隠才蔵が大沢たかおですが、
大沢たかおと江口洋介と紀里谷監督は同い年なんですね。
昭和43年生まれ。

他にも、小日向文世、六平直政、蛭子能収、鶴田真由、りょう、佐藤恵梨子、戸田恵梨香、福田真由子、深澤嵐など豪華キャスティング。

前作『キャシャーン』は退屈する箇所の多い内容でしたが、今回はほとんど退屈することなく最後までテンポよく見ることが出来ました。

最近の“荒唐無稽系”実写CG映画では、『ヤッターマン』よりは楽しめました(笑)。

まだ予告編しか観ていない人でも、紀里谷監督の前作『キャシャーン』を観た人は、「テイストが似ているな」と感じたかもしれません。

同じ世界観、とくに写真、アルバムジャケットを数多く手がけてきただけあって、色彩へのこだわりを強く感じると同時に、紀里谷ワールドの中における独特の色彩感覚は、陰影の深い「黒」が基調なんだろうな、と私は感じます。

昔、知り合いで画家を目指していた女の子がいました。
彼女は、「私の世界は緑」とよく言っていたものです。

まずはキャンバス一面に緑を下塗りしてから、この緑をベースに少しずつ彩度と明度を上げてゆく手法をとるのです。

そうすることによって、たとえば「太陽の赤」を表現しようと思ったときは、緑がベースにあると、よりいっそう太陽の赤味は深く、悲しいぐらいに鮮やかになるのだそうです。

私もこの話を聴いて以来、プラモを作るときは、まずは「黒(艶消し)」か「赤茶(マホガニー)」で下塗りを施してから、少しずつ明度を上げてゆく手法を取るようになりましたが(笑)、やっぱり、単に色を乗せるだけの発色とは違う、鈍くて深みのある厚みがあるんですね。それだけ完成までには時間がかかるけど。

そんなことばかり考えているせいか、紀里谷監督の映像を見ると、ああ、この人のベースとなるトーンは黒なんだな、と強く感じます。

画家で言えば、影の濃いレンブラントのような彫りの深い影のある世界。

これが紀里谷監督の映画に登場するセットや衣装、人物(特に男)に色濃く表れています。

たとえば、「赤」を表現するにしても、まずはベースに「黒」があって、この黒から少しずつ明度をあげてゆく深みのある「赤」。

たとえば劇中に登場する、中村橋之助(信長)がまとっていた甲冑の赤。
まるで、何十人もの人間の血を吸いこんだようなダークな赤い色調こそ、紀里谷監督の世界観を象徴する「黒ベースの世界」なのかな、と勝手に思い込んでいます(笑)。

しかし、すべてが黒がベースで彩色されているわけではありません。

「黒」はあくまで男性的世界、つまり人物(男性)や、建築物、町並みを描かれるときの基調色。

「男性」があれば「女性」もあるわけで、女性的世界観(人物、自然)は、青ベースの白が基調のトーンで描かれている。

それは、前作『キャシャーン』のルナ演ずる麻生久美子の描かれ方と、今回『GOEMON』で広末涼子演ずる茶々の存在感・佇まいがまったくもって瓜二つなところに表れています。

役どころも髪型もセリフ回しも。

ルナと茶々の役を麻生久美子と広末涼子が取り換えっこしても、それほど映画の大局には影響がないほど、監督好みの女性感は、ハッキリしていますね(笑)。
「内面的な強さを持ち合わせつつも、表面的には、男が“守ってあげたい!”と思うようなガラスのように透明で脆い女性」なのです。

彼女たちの描かれ方は、マッチョな男世界(黒が基調の世界)の対極とでもいうほどに、儚くデリケート。

この世界の質感が、白っぽい青とでもいうべき色彩感に象徴されていると私は感じます。

濃い青がベースに横たわったうえでの、淡い白。

男的色彩感覚の「黒」が油彩だとすると、女性的色彩感覚の「白」は水彩です。

劇中では、茶々(=広末)の滞在する大坂城の一室(まるでフランスの宮殿のような部屋だ)、そして、螢舞う風光明媚な滝の描写にそれを強く感じます。

建築物が「黒」基調なことに対し、自然(滝)が「白」で描き分けられているのも興味深い。

闘いに明け暮れるマッチョな男たち(血・泥・油)とは異質の世界を、まったく違う色彩感の青白さ(清楚、儚さ、透明)で描き分けるセンスが、この2時間強の映画を退屈せずに鑑賞できた「私的」なツボでした。

ストーリーとか、戦闘描写とか、そういうのは二の次(笑)。

だって戦闘はほとんどキャシャーンだし(笑)。

私にとっての『GOEMON』は、色彩感覚を愉しむ映画だったのです。

このような視点で5月1日より公開の『GOEMON』を観ると、また違う面白さを味わえるかもしれませんよ。

〔観た日:2009/03/24〕

記:2009/03/25

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