耐熱電動遊園庭
昔の音源
またもや発掘音源見つかったのでご紹介させてください。
《耐熱電動遊園庭》というタイトルの曲です。
これは1988年に録音したものです。
1988年といえば、昭和63年です。
うーん、昭和か。
私の中では、「ついこないだ」録音した感覚なんですが、もうずいぶん年月が経ってしまっているんですね。
サンプリング機能付きのミニキーボード
当時、サンプリング機能がついたミニキーボードが発売され、友人がそれを持っていたのですね。
鍵盤の数が少ないポータブルなキーボードだったのですが、何が面白いかって、サンプリングができること。
当時の感覚では、10万円を切る値段でサンプリングができるマシンが登場するなんて、夢のような話でした。
警察のパトカーについているようなマイクがキーボードの本体にくっついているんですよ。
これに声を入力すると、入力した声の「ドレミファソラシド」を鍵盤で奏でることが出来る。
もちろん声だけではなく、コップを箸で叩く「コン!」という音や、チャック(ジッパー)の上げ下げの音なんかをサンプリングしても面白い音になりますね。
その他、CDからもドラムパターンを音を採集し、ループさせても面白いリズムフィギュアを作り出すことが出来ます。
これは面白いな~と思っていたら、たまたまこのキーボードを持っている友人がいたので、彼からはひったくるように借りて家で遊んでいるうちに出来た曲が《耐熱電動遊園庭》なのです。
『テクノデリック』の《ニュー・タンズ》
この曲の核となるリズムは《ニュー・タンズ》のリズムを使用しました。
YMOの傑作アルバム『テクノデリック』の2曲目で、《新舞踊》と表記されていることもありますね。
この『テクノデリック』というアルバムは、世界初のサンプリング音を全面に押し出して使用したアルバムということでも有名です。
YMOの第四のメンバーと呼ばれていた松武秀樹氏が「オレンジ」というサンプリングマシンを制作し、これに工場の音や、バケツの底を引っ叩いた音や、人の声など様々な音をサンプリングして、楽曲の中に大胆に使用されています。
この「オレンジ」は、サンプリングした音の音程に変化はつけられなかったため、メロディとしてではなくパーカッシヴな使用法が中心となっていましたが、それが非常に刺激的。
「音の冒険」と「音楽性の高さ」が融合した傑作アルバムで、現在聴いても、『テクノデリック』の魅力は色あせるどころか、ますます輝きを増していると思います。
このサンプリングを初めて大胆に打ち出した作品に敬意を表して、このアルバムの中でも特にカッコいいナンバーをサンプリングさせていただきました。
それが《ニュータンズ》のリズムパターン。
サンプリングした音を、高めの鍵盤を押すと、音程の高い音が放たれるので、まったく違った雰囲気のリズムが生まれました。
おお、面白い!と思ったので、高めの鍵盤を押しながらリズムトラックをTEACのカセット式MTRに録音したのです。
Blue NoteマイルスのWell You Needn't
このリズムのパターンを録音してしまえば、私の中では完成したも同然なのですが、それだけじゃつまらない。
一応は、曲っぽい体裁を整えようと思い、メロディも作ってみました。
その際に、参考にした曲、というか頭に浮かんだのがマイルス・デイヴィスがブルーノートに吹き込んだ《ウェル・ユー・ニードント》だったのですね。
セロニアス・モンク作曲の彼を代表するナンバーでもあるのですが、多くのジャズマンが様々なバージョンやテンポで演奏している素晴らしい曲です。
当時の私は、ちょうどジャズという未知の音楽の世界に入門したての頃だったのですが、とにかくマイルスのトランペットが醸し出す退廃的な雰囲気に当時はものすごく魅せられていました。
それにプラスしてバネのあるアート・ブレイキーのシンバルが、その退廃っぷりをさらに増強させているように感じで、なんとも言えない気分にさせてくれる演奏なんですよ。
まだジャズの「ジャ」の字も知らぬ10代後半の私からしてみても、すごく惹きつけるだけの磁力を感じました。
あ、そうそう、ホレス・シルヴァーのピアノもすごく良いんですよ。
シンプルでメロディアスで。
いまだにこのナンバーは大好きで、時々聞き返すのですが、当時感じていた感触とまったく変わりません。
私の感受性が進化していないだけなのかもしれませんけど。
Miles Davis on Blue Note Vol.1
で、話がマイルスのほうにいっちゃっているので元に戻しますが、要するに、ブルーノートの『マイルス・デイヴィス・オールスターズ』に収録されていた《ウェル・ユー・ニードント》に触発されて、ピアノを叩き、キーボードの鍵盤を弾いた記憶があります。
いま聞き返してみると、このピアノとメロディのどこが《ウェル・ユー・ニードント》なんじゃい?!と思います。
それこそ「スカイツリーに触発されてナメクジの絵を描いてみました〜!」ほどのギャップがあります。
だから、どこが似ているとか、どこを参考にしたというのではなく、要するにマイルスの《ウェル・ユー・ニードント》が曲を作る原動力になったということでしょうね。
で、叩きつけるように鳴っているピアノは「ヘレン1号」が弾いているという設定にしています。
不器用かつ無骨にピアノを弾くという設定の「人造機械」にぴったりのボキボキしたピアノです。
で、ピアノは家にあったアップライトピアノの蓋を開けてマイクを突っ込み、そのマイクにコーラスをかけて録音しています。
だから、なんだか芯の細いモニャモニャした音になっているのは、エフェクトをかけているからなのですね。
タイトルについて(かなりの妄想)
なぜ、遊園地が耐熱なのかというと、それは爆撃などの空襲に備えて。
これまた完全に私の妄想なのですが、この音楽は遊園地で演奏されている音楽という設定です。
赤や青の原色のペイントが毒々しい遊園地は、じつは大戦中の日本の四国の山中に建造されたもので、敵国からの襲来に備えた迎撃機能も備えているという荒唐無稽な設定なのです。
遊園地に隠し兵器。
『超合体魔術ロボ ギンガイザー』かい?!って感じではありますが。
あるいは『トライダーG7』?
あ、G7は公園から発進するロボットだったか。
そして、この遊園地で行われるイベントで流れる音楽のピアノのパートは、人型自動鍵盤演奏機であるヘレン一号が不器用に和音をガチャガチャと棒のような奏でているという設定。
また、敵機襲来時には「人型拠点防空兵機ヘレン2号」も歩く高射砲として登場する。
そんな遊園地だから、表面的には楽しそうでいながらも、じつはそれほど楽しくもない。
でも不愛想過ぎでもない、そういうイメージですかね。
なんか、「ジェット・マジンガー」の時もそうですが、どうも昔の私の頭の中には、ヘンテコなストーリーが渦巻いていたようです。
記:2015/09/21