いやな予感/勝野慎子
2019/06/29
シンセベースとアレンジが素晴らしい
昨年(2000年)の12月にリリースされた、勝野慎子のシングル『いやな予感』。
高橋真琴の描くイラストのジャケットがインパクトで、一瞬、マーガレットの表紙かと思ってしまったよ。
この顔の周りを花だらけで覆われた少女は、まるで美内すずえや望月あきら風の少女マンガのヒロインばりに瞳がデカい。
どっちかというと、女のコが大好きで「懐かしい!!!」って思うジャケットかもしれない。
でもでも男のコもきっと吸い込まれそうになるでしょう.....ひひひ。
と、本人もHPに書いている通り、男のコな私も吸い込まれてしまったですよ.....ひひひ。
この《いやな予感》の何が素晴らしいのかというと、ベースの音!
「ヴィヨ~ン、ヴァヨォーン」とフリケンシーをかけまくりのベースの音。しかも腰のある低音なので、滅茶苦茶気持ちが良い。
シンセベースの音なのだろうが、もしかしたら弦ベースにエフェクトをかけまくった音なのかもしれない。
大学の頃、音楽室で利用していたアンプでかなり近い音を出せた記憶がある。VCFというスイッチを引っ張り、思いっきりつまみを10ぐらいまでに回して、ちょっぱぁした時の音に割と似ている気もするからだ。
もっともこういう太くて腰の座った音なら、弦だろうが鍵盤だろうが関係ない。低音好きにはたまらないサウンドだ。
印象的なサビと、盛り上がるまでのちょっとした混沌感が、アレンジとしては面白いと思う。
特に1番が終わったあとの中盤の箇所。サラッと入るヴァイブや、エフェクトをかけたギターによる「てろれろれろれろ」といった効果音も面白い。また、さり気なく声にエフェクトをかけるところが、後に再登場するサビと良い対比を出している。
もちろん、サビの印象的なメロディと、一気にスケールを押し広げる勝野慎子のワイドレンジなヴォーカルも素晴らしい。
フレットレスベースと歌詞が素晴らしい
2曲目の《大人になること》もベースが良い。
イントロで聴くことの出来る、リバーブをかけまくったフレットレスベースのサウンドもなかなかグッド。
失恋ソングだ。
失恋ソングゆえに、明るい曲調が逆にやるせない。
過去の楽しい思い出がまるで幻想だったかのようにユラユラとフレットレスベースの低音が幻影空間を作り出す。
歌詞も素晴らしく、さらに、その歌詞を彩るメロディもこれまた素晴らしく、そして、それを、これ以上ないというほどの情感を込めて歌う勝野慎子の歌唱にも胸が締め付けられるのだ。
大学に入学と同時に地方から上京、地元の恋人と別れたばかりという人もいるでしょう。
あるいは、大学を卒業して就職。その少し前にステディと別れた新卒の社会人の人もいるでしょう。
新生活への期待と同時に、思い残しも心の隅っこに残っている4月。
こういう時期に、このナンバーを聴くと、封印していた切なさが増幅されて涙が零れ落ちてしまうのではないかと思う。
明るい曲調で歌われる4月の切なさがぐっと迫ってくるのだ。
「春は柔らかくも残酷な季節」という歌詞とは相反する眩しいぐらいに明るい曲調が、逆に悲しく胸をしめつけるこの曲は、OL歴2年目以上の女の子あたりからは共感を多く呼びそうな内容なのかもしれない。
ちょうど今の時期にピッタリのシチュエーションの歌だね。
盛り上げるところはぐっと前に出てきて、まったくブレない彼女の歌声は良い意味で腰が据わっていると同時に、揺れ動く乙女心をも繊細に表現している。
曲調とアレンジ、ポップなんだけれどもアザとさの一歩手前で寸止めしているキャッチーな音色も私好み。
この《いやな予感》は、ここのところちょっとしたマイ・ブームで、サルのように何度も繰り返し繰り返しかけまくっている日が続いている。何度続けて聴いても飽きない内容なのだ。
もっと多くの人々に聴かれてしかるべき内容の楽曲だと思う。
記:2001/04/08