隠し剣 鬼の爪/試写レポート
誤解を恐れず、一言で言えば、『たそがれ清兵衛』パート2だ。
もちろん別な人物の違う話だが、
幕末という時代背景、
北国の小藩が舞台、
禄高が低くも一本筋の通った武士が主役、
屋敷に篭った罪人の成敗を藩から依頼される点、
など、『たそがれ~』と相似形な点は多い。
もっとも、両映画ともに池波正太郎の原作を映画化したものだから、世界観が似通っているのは当然ともいえるし、そのことがこの映画の価値を低くするものではない。
山田洋次のテイストが好きな人、『たそがれ清兵衛』の世界が好きな人には、たまらない内容、世界なんじゃないかな?
クラシックで言えば、『隠し剣 鬼の爪』は、『たそがれ清兵衛』という“主題”に対しての“変奏”なのだ。
同じテイストをもっと味わいたいための、一種のバリエーション。
だから、『たそがれ清兵衛』好きには安心して勧められる。
もちろん、真田広之と永瀬正敏、宮沢りえと松たか子など、主要人物の好き嫌いは、人それぞれだろうが。
私は、濱マイクのイメージの強い永瀬正敏にはまったく期待していなかったが、なかなかの好演だと思った。
あと、私は、山田洋次の殺陣へのこだわりが結構好きだ。
リアルなのだ。
死の恐怖に怯えながら、ちょっと腰が引けた感じの真剣勝負。
まったく華麗ではないし、勇壮でもない。
しかし、次から次への剣の一振りで人がバタバタ倒れていく時代劇の殺陣とは違うリアルさがある。
死にたくない、だけど倒さなければ殺られる、という切迫感が全身から滲み出る殺陣は、観ているこちら側にも、痛みが走るし、呼吸が荒くなるのだ。
この映画の唯一の不満というか、ま、不満というほどでもないのだが、松たか子がね……。
いや、演技云々の話ではないよ。
常に健康優良児的にふっくらした松たか子には、“やつれ”や“薄幸さ”は微塵も感じられず、可哀相度が半減。とても女中には見えない。 というのが、せっかく殺陣で発揮しているリアリティなのに、こちらのほうのリアリティがいま一つというのが残念だ。
観た日:2004/10/06
movie data
監督:山田洋次
製作国 : 日本
製作年 : 2004年
出演:永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小澤征悦、田畑智子、高島礼子、倍賞千恵子、田中邦衛、光本幸子、田中泯、小林稔侍、緒形拳 ほか
記:2004/10/08
加筆修正:2004/12/31