鮭児
“鮭児”と書いて、“けいじ”と読む。
ある女性と、魚料理が滅法美味い料理屋のカウンターで、飲んでいたときのことだ。
たまたま、ルイベが出てきたせいか、鮭の話題になった。
幻の鮭、「時不知(ときしらず)」を食べた話なんかをして、私は得意がっていた。すると、カウンターごしから板前さんが、「もっと幻の鮭、知ってます?」と会話に参加してきた。
もっと、幻の鮭? それって、なんですか?
これです。
「鮭児」と書いてある北海道の羅臼らうす町かどこかのタグだった。
「私もねぇ、20年近くこの仕事やってますけど、鮭児は滅多に手に入りませんよ。1万匹に1匹ぐらい、いるか、いないかぐらいかなぁ?」
かなり幻の魚らしい。
最近では市場に出回っているが、昔は、一般には販売されておらず、漁師の間だけで「究極の魚」と言われ、猟師のまかないとして出されていたのだそうだ。
鮭児は、「アキアジ」の産卵群に紛れ込んだ未成熟のシロザケで、腹の中は卵も白子も入ってなく、雄雌の区別がつかない珍しい鮭なのだそうで。
なぜ、卵も白子もないのかというと、翌年に産卵を控えた状態だからだ。
鮭は、通常生まれて4年目の秋に、生まれた川に産卵のために戻ってくる。
しかし鮭児は、どういうわけか、3年目に間違って戻ってきてしまった鮭なんだそうで。
時不知と同様に、卵を持っていないぶん、また、産卵のための疲労がないぶん、身に脂がたっぷりとのっている。そう、全身トロ状態。
板さん言うには、「あれは、すでに、鮭じゃないですね。トロですよ。大トロ!」
おお、美味そうだ!
さらに、未成魚なので、肉質はこまやか。口の中で本当にとろける感触なのだそうだ。
「国産の高級霜降り牛肉並の見栄えですよ」
うう、喰いたい。
「ひょっとしたら、大トロ以上かもしれないなぁ。」
喰いたいです。今、お店にないんですか?
「今はありませんよ、この前はあったんですけどねぇ、残念ながら」
でも、かなり高いんでしょ?
「そりゃぁ幻の魚ですもん、高いですよ。産地市場価格だと、一尾10万円以上するんじゃないかなぁ。」
た、高いっすねぇ。
「競りだと、キロ3万円ぐらいですよ。」
ちなみに普通の秋鮭は1キロいくらぐらいですか?
「900円です。」
すごい差だ。相当高価な鮭だということを値段で実感。
「店に入ったら連絡しますよ。」
と、板さんは約束してくれた。
連絡受けても喰うか喰わないかは、その時の懐具合にもよるが、鮭児、是非とも食べてみたい鮭だと思った。
記:2001/12/12
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