嫌われ松子の一生/鑑賞記
先日、ハワイへ行ってきました。
行きの飛行機で『嫌われ松子の一生』の上巻を読み始めたら、結構面白い。
「ものすごく面白い!」と手放しに絶賛できる面白さではないのですが、飛行機に長時間揺られながら読むのに相応しい温度と手ごたえ(難解すぎず、飽きもしない)の内容なのです。
続きも気になるので、下巻のほうも、到着したホテルで読み始めました。
ちょうどテラスでビーチを見下ろしながら、波の音をBGMにしてあまり深いことを考えずにパラパラとページをめくるに相応しい内容なのです。
気が付くと、あっという間に読み終えていました。
どうしようもなく不器用で、シャレにならないほどの転落人生を歩んだ主人公・川尻松子の一生。
あまりのシャレにならなさっぷりに、映画ではどのようにアレンジされているのかという興味が働き、帰国後はすぐに映画も観ました。
あのキッチュでスピード感のある『下妻物語』の監督の作品なだけあって、予想通り悪趣味一歩手前のきわどさで疾走する映画でした(このスピード感も後半はやや失速気味ではあったが)。
原作のディテールもうまく省略され、作品を映画として面白くするための脚色や新設定も、まぁ悪くないんじゃないの? というのが率直な感想。
先述したとおり、ほんと、転落に転落のつぐシャレにならないほど惨めな一生なのに、どこかポジティブな活力に溢れているのは何故でしょう? もちろん、笑いの要素をふんだんに盛り込んだ監督の独特のセンスに負うところも大きいでしょう。
あとは、きっと彼女が女性だからということも大きいと思う。
同じ内容で男が主人公の物語だと、どこかハードボイルドっぽい言い訳が用意されたり、あるいは陰惨なダメ男な話に終始してしまいそうだから。
そういえば、中谷美紀は映画で力演してましたが、他の女優が松子を演じても面白いかな、と思った。
べつに、中谷美紀が松子を演じたことに対しての不満からではありません。
これはこれで、ひとつのキャスティングの正解でしょう。
しかし、中谷美紀の「松子像」は一つの可能性として非常に興味深く面白い出来となっていましたが、松子の役は中谷美紀じゃなきゃあり得なかったという類のものでもありません。
おそらく読者の想像する松子って読者の数だけあると思うのです。
寺島しのぶが松子を演じたら?
晩年になればなるほどハマりそう。男がむせて返って「やめてけれ!」と逃げ出しそうな女の「業」の深さが出てきそう。
伊東美咲が演じたら?
「危険なアネキ」を彷彿とさせる能天気であっけらかんとした内容になるのかな? あるいは、映画『海猫』のように、悲壮さが先立つ存在になるのか?
仲間由紀恵が演じたら?
「功名が辻」の一途さと、「トリック」のゆるいギャグがブレンドされたアフタービートな緩いギャグ調になる?
小雪だったら?
明るいトーンを醸し出すのが難しいかも。ギャグのつもりのシーンもギャグではなくなりそう。
黒木瞳が松子だったら?
20代の演技には無理があるかもしれないが、出所以降の話にはハマりそうだな。
井川遥だったら男に殴られたときの表情がそそりそうだなとか、宮沢りえだったら薄幸さに拍車がかかって、シャレではすまない内容になりそうだなとか、松たか子だったら、「嫌われ松たか子」だよなぁなんてクダらんことを考えたり、親友のAV社長が高島礼子だったらカッコいいかもな、
などと、妄想の中で勝手にキャスティングして楽しむのも一興かと。
何年か経た後、違う監督と違う女優による松子も観てみたい。
案外、すぐにテレビ化されたりしてね(笑)。
と、書いてしばらくしたら、早速テレビドラマ化されましたね。
主役の松子は内山理奈。
彼女の松子もそれはそれでアリだと思ったが、一生懸命に演じようという姿勢はすごく伝わってくるのだけれども、後半になればなるほど、熱演に反比例した「痛さ」を感じるようになったのは、いったいどういうことなんだろう?
それはともかく、ソープのマネージャー赤木さん役に北村一輝なのが意外にハマっていて良かった。
記:2006/06/28