恋の門/試写レポート
2018/01/09
たとえば、こういう仮説を立ててみると面白い。いや、腑に落ちると言うべきか。
要するに松尾スズキは、酒井若菜とヤリたかった。だから酒井若菜とヤリたいがために映画監督になり、映画と作ってしまった、と。
もちろん嘘です。
時系列が逆だから。
酒井若菜の起用が決まったのは随分後になってからのことで、主役に松田龍平が決まった時点では、恋乃役はまだ決まっていなかったというのが真相だ。
だから、「性欲がデッち上げた映画」という仮説はまったくもって成立はしないのだが、でも、そう考えたほうが面白いじゃないですか(←無責任)。
というよりも時系列を逆転した仮説の一つも立てたくなる私の気持ちは、おそらくこの映画を観ていただければ分かると思う。
ああ、スズキさんったら、若菜のこと、好きで好きでしょうがないんだなぁ、というのがよく分かるのだ。
いや、好きかどうかまでは正確にはよく分からないけれども、少なくとも酒井若菜に対して欲情していることは確かだ。
もちろん、劇中に登場する松尾スズキは若菜とはやっていない。それどころか、酒井若菜は脱いでさえもいない。せいぜい、クチュキチュ・ミチャピチャと音を大きめに立てながらキスするまでがせいぜい。
もちろん、松尾スズキと酒井若菜のキスシーンもある。
ストーリー的に俯瞰すれば、別にキスする必然性が絶対にある流れではないのだが、とりあえずグチュグチュなキスシーンは劇中に“脚本家”でもある松尾スズキの手によって周到に盛り込まれている。撮影の見学に来ていた御婦人を帰してまで臨んだ渾身のシーン(?)だ。
しかーし。
「くっそぉ~、キスだけじゃ物足りねぇぜぇ!」という監督の怨念とリビドーと劣情の眼差しが、フィルムの隅々までに焼き付けられているので、映画全体に妙なグルーヴ感が生まれているのだ。
このグルーヴと、鑑賞者の負け犬的高感度アンテナがシンクロすると、シアターはライブ会場と化し、客席は大きなウネリに支配されることになる。観ている、というよりも参加しているという感じ。
私は原作のコミックを読んでいないので、なんともいえないのだが、原作の無茶苦茶なストーリーと荒唐無稽さが比較的忠実に再現されている、らしい。
だから、こんなヤツいねぇよ、とか、そんなアホな!な箇所も、すべて作品全体を覆う妙なグルーヴ感に支配され、それほど違和感の無い仕上がりになっているのが面白い。
よって、面白く見れた。
しかし、この面白さは、音楽で言うと、ライブ感覚の面白さだ。
つまり、後で冷静に聴き直すと、大した演奏じゃないのだけれども、ライブの熱気に呑まれて、演奏に熱狂してしまうことに似ている。
おそらく映画公開後にレンタルショップに並んだビデオを借りて自宅で観ても、面白くもつまらなくもなんとも感じないに内容に違いない。
ということは、私の試写会場で感じた面白さは、3割増しの面白さ。ま、楽しめたという点においては、トクしたかな、って感じ。
熱が冷めると、「なんじゃありゃ?」な内容ではあるが。
もう一つ、この映画の楽しみを紹介すると、色々なところに、様々な有名人が意外な役で出ていること。あ、こんなところに庵野秀明&安野モヨ子夫妻がいる!とか、おお、ヤツの正体は清志郎だったんかい!的なディティール探しの楽しみはある。
庵野秀明といえば、彼作のアニメのオープニングも面白い。
清志郎といえば、カットしても別に違和感ないんじゃない?というシーンが後半にあったな。
欲張りすぎというか、ストーリー的な必然性がまったく感じられない清志郎の歌&商店街パレードは蛇足に感じる。
“せっかく忌野清志郎さんが歌ってくれるんだったら歌わせちゃえ”程度なノリで劇中に挿入されているのだろう。清志郎好きにはたまらない映像だろうし、作品のおバカ&ハチャメチャ度をアップさせる効果もあるのかもしれないが…。
しかし、ミュージカル的な要素が入れば、映画にハクと厚みが出るなんていう思い込みであのシーンを盛り込んだとしたら、それはエラく勘違いしていると思う。だって、薄っぺらでハクなんかの付きようのないところが、この映画の魅力なんだから。
観た日:2004/06/28
movie data
製作年 : 2004年
製作国 : 日本
原作 : 羽生生純
監督・脚本 : 松尾スズキ
出演 : 松田龍平、酒井若菜、松尾スズキ、塚本晋也、小島 聖、忌野清志郎、小日向文世、平泉 成、大竹まこと、大竹しのぶ、尾美としのり、田辺誠一、片桐はいり、市川染五郎、平岩 紙、杉村蝶之介、皆川猿時、花井京乃助、ユセフ・ロットフィ、江本純子、筒井真理子、三輪ひとみ、高橋征也、庵野秀明、安野モヨコ、内田春菊、山本直樹、ジョージ朝倉、小森未来、枡野浩一、河井克夫、三浦崇史、しりあがり寿、神谷 誠、永井 修、井口 昇、秦 寛憲 ほか
配給・宣伝 : アスミック・エース
公開 : 2004年秋
記:2004/07/22