HGマラサイ改修レビュー
2021/02/08
特装機兵ドルバック
メカニックデザイナー・小林誠氏の名前を知ったのは、アニメ作品『特装機兵ドルバック』がきっかけでした。
この作品の放送が始まり、登場メカがキット化され、プラモが店頭に並び始めた頃、私はえも言われぬ怒りがこみ上げてきました。
「なにこれ、SF3Dのマネジャん!」って。
『ドルバック』に登場するパワードスーツ(ハーク、ノーブやガーディアン、ティンクルベル)は、「SF3D」に登場するS.A.F.S.をパクっているのではないか、しかも、劣化パクリもいいところじゃないか?!と思ったのです。
SF3DのS.A.F.S.
『SF3D』のS.A.F.S.とは、当時の『ホビージャパン』誌に連載されていた横山宏氏による人気コーナーです。
ミクロマンやバイクのエンジン、さらにはピンポン球やヤクルトの容器など、様々な立体物を駆使して未来のSF兵器を造形し、ストーリーに落とし込むという独創的な内容だったのですが、そこに登場する最も人気の高いパワードスーツがS.A.F.S.(Super Armerd Fighting Suit)だったのです。
現在「SF3D」は、「マシーネン・クリーガー(Ma.K.)」というシリーズとして、国内のみならず海外のモデラーからも熱狂的な人気を博していますが、このシリーズの黎明期に中学生だった私は、毎月『ホビージャパン』を購入し、「SF3D」のコーナーを読みあさっていたものです。
単行本も中学生の小遣いにはちょい高めな値段でしたが、買って読みましたし、弟にいたっては、読者ハガキのコーナーの投稿して掲載されたりもしていました。
『HOBBY JAPAN』は楽しい雑誌だった
余談ですが、この時期の『HOBBY JAPAN(ホビー・ジャパン)』は、とても楽しい雑誌でした。
横山宏氏のみならず、「改造しちゃあかん!」というインパクトある標語とルックス、そして独特な作風でドライブラシを広めた松本州平氏や、彼のライバルで戦車模型を改造しまくる梅本弘氏(本名・市村弘/のちに『Model Graphix』を創刊)、それに現在はプロモデラーの第一人者であるMAX渡辺氏もインパクトある力強い作品をバシバシ作って発表していました(個人的にはフルスクラッチのストライクドッグに魅せられていた)。
また、現在はバンダイ ホビー事業部の社員で、「川口名人」と呼ばれている川口克己氏の作品も毎月掲載されており、作例記事には必ずと言って良いほど飯島真理のことが書かれていたことも懐かしい。
当時の『HJ』誌は、魅力あるプラモの作品のみならず、各モデラーのキャラクターが際立っており、なおかつ彼らの魅力を引き出す企画が満載で、雑誌としてのパワーが漲っていたと思います。
こういう雑誌を将来作れると面白いだろうなぁなんて思っていた当時の私は、『ビックリハウス』(現在廃刊)や『宝島』(現在廃刊)のようにサブカルチャー色の強い雑誌や、YMO一辺倒の『サウンドール』(現在廃刊)という、好きな人にはめちゃくちゃ響くが一般受けはしない内容の雑誌を愛読していたこともあると思うのですが、多感な時期に紙媒体が持つグルーヴやパワーを感じ取り楽しめていたことは幸せなことだったと思います。
今考えてみれば。
ドルバックのパワードスーツとアリイのガルダン
さて、余談はここまでにしておいて。
私が中学3年生の頃だったと思うのですが、いよいよ大好きな『SF3D』の作品がNITTO(ニットー)という模型メーカーからプラモ化されるということを知りました。
出たら絶対に買ってやる、発売まだかな、まだかな、と思っている矢先に、『ドルバック』のキットが模型店の店頭に並んだものですから、せっかく『SF3D』のキットの発売を楽しみにしている自分の熱い気持ちに水を差されたような気分になったのかもしれません。
その時の気分は、第一次ガンプラブームの時に、近所のおもちゃ屋や模型店でガンダムのプラモデルは入荷と同時にすぐに売り切れてしまうため在庫がない状態が続いていたのですが、その隙間をついて、「アリイ」というプラモメーカーがガンダムのモビルスーツを劣化コピーさせたような「ガルダン」というシリーズのキットを出し、そのデザインやお粗末な世界観にトホホと脱力した気分と似ているかもしれません。
なぜ「ホンモノ」は手に入らず、「ニセモノ」ばかりが巷に溢れとるんじゃい!と憤り、「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉が実感を伴って理解できたのもこの頃でした。
アリイの「ガルダン」のデザインは、それはもう酷いものでしたが、「ドルバック」に登場するパワードスーツのデザインはもうすこしマシでした。
しかし、腕の片方がレーザー兵器になっているところや、パンツァーファーストのような武器などは、明らかに「SF3D」のパワードスーツのパクリですし、丸っこいボディに短足ガニマタなフォルムは、これはもう私が好きで好きでたまらなかったSAFSの特徴をパクったものにしか思えず、なんでこういうもんが出るのかな〜、という気持ちでいっぱいでした。
クレジット・小林誠
そんなある日、中学の帰り道によく寄り道をしていた模型店を覗くと、「こんなの出てるわよ」と店のおばさんが、1冊のタミヤニュースのような判型の小冊子をくれました。
ドルバックのプラモを出しているグンゼ産業が模型店に配布している「ドルバック」の小冊子でした。
ページをめくると、ドルバックに登場するパワードスーツのプラモを改造した作例が何体も並んだジオラマ風の写真が掲載されています。
大胆、といえば聞こえはいいけれど、横山宏氏が生みだす「SF3D」の作品のような繊細さに欠けており、正直、私にはあまりカッコ良いものには思えませんでした。
作った人の名前が小林誠となっており、メカニックデザイナー小林誠氏の名前を知ったのは、このドルバックの小冊子がきっかけとなったのです。
作例の解説も掲載されており、雪のジオラマの地面には「塩を使った」と書いてあったことが妙に新鮮でしたね。「面白い発想の人なんだな、なんでタミヤの情景スプレーを使わないんだろ?」なんて思った記憶があります。
また、「徹底的にリアリティを追求した」みたいなことが書いてあったのですが、ずらりと並ぶパワードスーツたちの造形は、リアルな兵器と言うよりは、白くて汚れた粘土人形のようにしか見えず、正直、私の心には全く刺さりませんでした。
ちなみに、小冊子に掲載されていた作例は、下の「ダンク」が発売される前のこと。
この「ダンク」のデザインは、まだマシな部類です。
パワードアーマー 高機動強襲型 ダンク&キューピット
今まで見慣れてきたガンダム、マクロス、サブングル、ボトムズのアニメに登場する人型兵器や、「SF3D」のようなミリタリー色の強い兵器とは明らかに一線を画する発想、造形だったため、心に刺さらないというよりは、理解不能な世界を目にしたという方が正しいのかもしれません。
しかし、小林氏の作例にインパクトがあったことは事実で、なんだか妙な「引っかかり」を心に残したまま私は高校生になりました。
ゼータのマラサイ
高校入学後は、ガンダムの続編が『機動戦士Zガンダム』としてアニメ化されたわけですが、そこに登場するモビルスーツは「ファースト」ガンダムで築き上げられたベーシックで力強い大河原邦男氏のデザインを良い意味で離れようとしているようなユニークな形状のモビルスーツが多数登場していました。
おそらく「エルガイム」のデザイナー永野護氏を起用したことが大きかったのでしょう。
初期に登場したリックディアスは、従来のモビルスーツが持つ暗黙のルールのようなものを踏襲しつつも、新しい息吹を感じましたし、さらにキュベレイやハンブラビのデザインに至っては、複葉機からジェット機以上の形態の進化っぷりを感じました。
当時はこれらのMSのことを、「こんなのモビルスーツじゃない!」とこき下ろすクラスメイトもいたくらいでしたから、当時の日本全国のガンダムファンの間では、永野氏デザインのMSに関しての賛否両論は激しかったのかもしれません。
その中で、私の目を引いたMSが「マラサイ」でした。
ザクをベースにしたようなデザインですが、平べったいカブトをかぶったような頭や、トゲを長く強調したような肩のスパイクアーマー、ふくらはぎがコッテリとボリュームがあるのに対して、モモの部位はとても小さい。同様に、腕の部分も一の腕は大胆に大きいにもかかわらず、二の腕が極端に細い。
出るところは思いきり強調し、引っ込めるところは極端に絞るというデザインがなかなかユニークかつカッコ良く感じました。
また、番組の終盤に登場したラスボス機、ジ・オも異様な迫力と不思議な魅力を放っていましたね。
これもお相撲さんのようなずんぐりボディに比して、細くとがった頭部、それに足を覆う巨大なスカートアーマーなどが、まるで動く要塞のようにデップリとしており、ものすごい迫力でした。
私の場合は、アニメよりも当時の『モデルグラフィックス』誌に掲載されていたフルスクラッチのジ・オの方にインパクトを感じていましたが。
製作したモデラーの名前は失念してしまいましたが、まるで岩のように荒々しいボディがとてもインパクトがありカッコよかったのです。
ガンダムに詳しい友人に聞くと、マラサイもジオもデザイナーは、小林誠という人だよ、とのこと。
このMS以外にも「バウンドドッグ」や「ガザC」もデザインしているということも初めて知りました。
「小林誠といえば、ドルバックのあのカッコ良いんだかカッコ悪いんだかよくわからない作例を作っていた人ではないか!」ということを思い出し、そして今までドルバックで感じていた違和感が、これら一連のMSの造形を見るにつけ、ピン!と焦点が合ったというか、心の中で妙に腑に落ちたのです。
つまり、小林誠というメカニックデザイナーの作風は、出るところは思い切りボリューミーに強調し、引っ込めるところは思い切り絞るデザインをする人なんだ、と。
このメリハリの配合が他のデザイナーよりも極端なので、一見カッコ悪そうに見えるんだけれども、よく見ると実はかっこよいという不思議な「3年殺し」的な魅力を持つデザインをする人なんだろう、と。
小林氏がデザインしたZZガンダムも、まさにそうですよね(もっとも最終的にアニメに登場したデザインは他のデザイナーがクリンナップしてはいますが)。
この感想は間違えているかもしれませんけど、現在の私が抱く小林誠氏のデザインに抱くイメージは全く変わっていません。
以来、むしろ小林誠氏の作風が好きになり、というよりは正確には気になり始め、高校の時は小林氏の架空兵器の作例が満載の本なんかも買って日々眺めていましたね。
軍用シャトル「タイコンデロガ」なんかは不思議な魅力を放っていて、今でも時々夢の中に登場するほどです。
よし、マラサイをボロボロにしよう!
で、マラサイなんですが、小林氏のメカの特徴は、特に「ガザC」に顕著なんですが、一見カッコ悪そうに見えるんだけど、よく見ると、ものすごく味があるということなんですね。
シャープすぎること、カッコよすぎることへのアンチテーゼみたいなものも感じる。
最初はヘンなモッサリ感を感じるんだけれども、聴いているうちに中毒的にハマってしまうハービー・ニコルスのピアノのように。
だから、ヘンな話ですが、小林氏デザインのガンプラは、どんなにカッコ悪く作っても、あるいはどんなにカッコ悪くアレンジしても許容されてしまいそうな懐の深さを感じるんですね。
だから、こそ。
普通に作ってしまうと、普通にカッコよくなってしまうガンプラですが、もう少しボロっちく、かつドンくさくしてみようと思った際、小林誠氏デザインの作品なら、許されちゃんじゃないかと思ったんですよ。
だから、だいぶ前に作ったHGのマラサイですが、パテでガザガザした鋳造っぽいボデイにしても、却って味わいが増すんじゃないかと思い、今回マラサイをタミヤパテで表面を荒らしまくって再塗装してみました。
指でボディ表面にパテをグリグリと塗りつけ、そのあとはラッカー塗料を何十にも重ね塗りをしたのがこれ。
なんだかボロっちいんだけれども、そのボロッちさが却って味わいを醸し出しているんじゃないかと個人的には思っています。
以前作った回収前のものと比べると、ずいぶんとダルい感じになってくれました。
パテ塗り楽し
何より今回の作業で気が付いたのですが、指を使ったパテ塗り作業って楽しいね、ということ。
昔はドイツの戦車にツィメリットコーティングをした際にもパテを車両に塗リタ食ったことがあるんですが、その時は戦車の複雑な造形を殺しちゃまずいよなと思って、慎重に緊張しながら作業をしたので、あまり楽しいとは感じませんでした。
しかし、今回のマラサイは架空の兵器ですから、仮にパテを盛りすぎてモールドを消してしまっても最初からなかったってことにすれば良いのですから、細かいことは気にせず「どりゃー!」と勢いに任せてパテを全身に塗りたくることができました。
そして、この作業が、まるで幼稚園の時に砂場で遊んだ記憶や小学校の時に紙粘土で立体造形物を作った時の記憶が蘇ってきて、なんだか童心に戻ってパテの塗り塗りを楽しむことができました。
このパテで表面を荒らす作業、結構クセになりますので、おそらく次はジオなんかでもこの作業をすると思います。
その際は、もっと大胆にパテを盛りまくろうかと思っています。
それこそ美術館で絵画を至近距離で見ると、油絵の具が大胆に山になるほど盛られており、画集からでは感じられない迫力を感じられるように。
パテの盛り盛り作業、本当癖になりそうです。
ガザガザと通り越して、ブツブツになった箇所もありますが。
すべてラッカー筆塗り
ちなみに、今回のマラサイの塗装で使った塗料は、すべてクレオスのラッカー系塗料で、最初はRLMグレーにミドルストーンを混ぜた色で下塗りをしました。
これが乾いたら、クリアオレンジにデザートイエローを混ぜた色で上塗りしました。
乾いたら、マホガニーと黒と赤かっ色を混ぜた色をしゃぶしゃぶに薄めて溝に流し込み、さらに乾燥したら、今度はクリアレッドにダークイエローを混ぜた色を上塗り。
赤くなりすぎたので、乾いたら今度はオレンジとロシアングリーン(1)の混色をランダムに塗り、さらにダークイエローとクリアオレンジを混ぜた色をランダムにのせていきました。
メリハリをつけるために、再び黒とマホガニーを混ぜて薄めたものをへこんだ箇所を中心に流し込むように塗り、乾燥後は、出っぱったところを中心に明灰白色やダークイエローを擦り付けるように塗装しました。
すべて筆塗りです。
塗っていく過程で、上に乗せる色味が、周囲の色味と明らかにギャップがありすぎる場合は、筆をプラ表面に擦りつけるようにグリグリすると、下地の色が溶けて、微妙な色合いになってくれます。
完成したマラサイを見ると、なんだか妙に落ち着いた表面に見えますが、それはラッカー系の塗料を上から何十にも重ねたので、シンナーで表面が溶けてしまったからでしょう。
基本、赤っぽい感じではあるけれども、アップで見ると、いったい何色なのかが分からないという。
赤のニュアンスは残しつつも、もう少しダークイエローの要素を強くした色にしようという漠然としたイメージはあるにせよ、あまり深く考えずに、塗料さらにどんどん塗料をドボドボと出し、筆をシャバシャバつけて、塗ると言うよりは叩きつける感じでどんどん色を重ねていきました。
とにかくこの一連の作業が楽しくて楽しくて。
塗っている最中の色味の変化も楽しいですが、塗装後一晩寝かせて乾かした後、朝にお目にかかると、これまた予想していた色味とは違う色合いになっていることも驚きの連続で楽しいです。
最初から意図して計画通りに筆を動かすのではなく、かなり行き当たりバッタりで気の向くままに塗装し、その結果が予想外になっていればなっているほど面白い。
塗装の過程に於いては「しまった、こんな色にするはずじゃなかった!」という局面が度々訪れますが、なぜか「神の見えざる手」が働くようで、結局最終的には、「なんとなくこんな感じにしたかった」色味に落ち着いてくれることも興味深いですね。
兎にも角にも、パテでガザガザ、筆塗りテキトー路線は病みつきになりそう。
次も、クセの強い小林誠デザインメカでトライしてみようかと思います。
そうすると、次はやっぱりジオかな?
記:2017/03/24
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