midori/飯島真理
ウブな高校生時代によく聴いていた
秋は『midori』の季節だ。
あ、飯島真理の『midori』ね。
秋にこのアルバムを聴くと染みてくる。
特にレコードでいうB面の曲の一連の流れが泣けてくる。嗚呼、秋だなぁ、midoriだな、なんて。
と書くと、毎年私は秋になると飯島真理の3枚目のアルバム『midori』を聴いているようだが、じつは、これを秋に聴くのは数年ぶりだったりする。
しかし高校時代は、LPを擦り切れるほど聴きまくりましたでっせ。
ちょうど、この『midori』が発売された年の秋は、彼女と会えない日の寂しさや切なさは、『midori』を聴いてカラッポな気持ちを埋めていたもんです。(次いで原田知世の『Pavane』もよく聴いていたような気がする)
違う高校に通っていたので、そうしょっちゅう彼女と会うわけでもなく、会えたとしても良くて週一回。
ということは、最低でも週に6回は聴いていたわけだから、もう音の隅々、細部まで記憶しているので、数年ぶりに聴いても懐かしさを感じるよりも、頭の中にある空白の枠組みの中に、ピタリと図形がはまったような心地よい感触を感じる、といったほうが正確かもしれない。
あ、とはいえ、つきあっていた彼女は飯島真理に似ていたわけではまったくなかったんだけど。
むしろおニャン子クラブ時代の新田恵理に似ていると周囲からは言われていたようだけど、アイドルに疎かった私はおニャン子のメンバーは誰一人として知らなかったんだよね。
通っていた高校が、昔のフジテレビの近所だったもので、下校中、よくおニャン子のメンバーとすれ違ったらしく、クラスメートから「おい、今、お前とぶつかりそうになった子は、会員ナンバー5番のなかじ(中島美春)だぞ」といわれても、「え、そうだったん? 制服着てたから普通の女子高生かと思ったよ」程度の認識で、もっぱら私の関心は、フジテレビ近くの坂を下ってすぐのところにあるゲームセンターでハイスコアを出すことだったりしていた。そう、高校時代までの私は、かなりのゲーマーだったのです。シューティングゲームが得意というか好きで、ゲーセンでプレイ中にはよく人だかりが出来たものです。
B面が良い
余談はさておき、『midori』は、思い入れのあるアルバムなんだよね。
飯島真理の1枚目は、フランス語で「ロゼ(ピンク)」、次いで「ブランシュ(白)」ときて、3枚目は日本語で「midori」。
彼女の作品の中では、一番よく聴いたんじゃないかと思う。
それこそLPが擦り切れるほど。
そうそう、LPだと、ジャケットが大きいから毛糸のセーターの質感が良く出てるんですよね。
音楽的な完成度や、楽曲、アレンジの素晴らしさは、坂本龍一がプロデュースした1stアルバムの『Rose』が他の諸作より一歩も二歩も抜きん出ていると思うし、飯島真理のアルバムの中では、もっとも聴いた回数の多いアルバムではある。
しかし、特殊な気分のときにきわめて意識の深い部分まで音楽と自分がシンクロ出来る局地決戦兵器的なアルバムは、やはり『midori』なのだ。
A面ももちろん悪くないのだが、歌詞の一部がどうもクサいというか、同世代女性に対しての上から目線的な歌詞もあり、どうしてもガサツな私の心に響かないフレーズが散見されるためか、ターンテーブルに載せる頻度はB面が多かった。
とはいえ、感動はA面ラストの《いつものパーティ》から始まっているんだけれどもね。
ほんわりと温もりを感じるテイストと、漂うほろ苦さがなんとも当時の恋の進行状況とシンクロしてしまうのですが、今ではCDを聴くときは、B面の1曲目にあたる《二つの風船》からスタートさせることが多い。
《二つの風船》はいい曲ですよ。
当時、真理ちゃんがパーソナリティをつとめていたFM番組のオープニング曲だったので聴けば、ああアレねと懐かしい気分にひたれる方も少なくないのでは?
曲調はまさに澄み渡った秋の青空ではありませんか。
中盤のキーボードソロの旋律は明るさの中に切なさのスパイスです。
秋の澄み渡った深い空を感じる名曲ですね。
次のナンバーの《雨の街で》も良し。
一言、「しんみり」。
この曲を聴くと、いつも私はきまって当時代々木にあった模型店「ポストホビー」を思い出す。
雨の日だった。このプラモ屋さんで、バイファムやエルガイムやドルバックのプラモを物色しているときに、ふわりと流れてきて、それが家で聴いているときよりも心地よく感じたんだよね。
そう、当時の私はゲーマーであると同時に、アニメとプラモが大好きなオタクだったのです(今でもだが)。
この記憶が今でも増幅され続けているのか、私にとっては「雨の街」ではなく「雨のプラモ屋」なんだよね。
当時流行りの音色だった、エッジがシャープなエレピの音色で、ステディな8ビートのバッキングが特徴的な《タイト・ロープ》も好きでしたね。
中盤の音数を抑えた短いギターソロも好きだった。
この曲からメドレー形式に続く《恋は気ままに》は明るさの中に潜む恋の終末を予感させるところが好きだったけれども、むしろこれに続くB面の目玉曲《midori》を劇的に彩るための前菜というイメージが個人的にはある。
そして、飯島真理の数ある曲中でも美しいメロディの3本指に入るのではないかと思うほど、切ない《midori》で大感動のアドレナリンが放出される。
ドラマティックなアレンジに、タメのたっぷりはいったドラムのフィルがさらにこの曲の「劇的感」を強調している。
そして感動で盛り上げたリスナーの感情をやさしくフェードアウトさせることを手伝ってくれるのが、最終曲の《もののかたち-marron》。
真理ちゃんのピアノにオーケストラがかぶさるわけだが、このシンプルながら特徴的なメロディを持つナンバーは、当時のキーボード雑誌、たしか『キープル』かな? それにピアノ譜が採譜されていたので、私は高校の音楽室でよくこの曲を弾いていたものです。エリック・サティの曲と交互に弾いてもまったく違和感がなかった。
というわけで、「秋はmidori」と軽い気持ちで紹介するつもりだったのが、いつの間にかB面のすべての曲紹介をしてしまった。
だからといって、買って聴いてみてね~と無理やり勧めているわけではありません(むしろ、気軽に買われて嫌いになられるほうが怖い)。
ごくごく私的な愉しみの一部を公開しました、って感じです。
記:2011/10/09
album data
midori (ビクターエンタテインメント)
- 飯島真理
1. 僕の魔法
2. ひとりぼっちが好き
3. ファースト・デイト
4. Girl Friend
5. いつものパーティー
6. 二つの風船
7. 雨の街で
8. Tight Rope
9. 恋は気ままに
10. midori
11. もののかたち-marron
producer:清水信之
発売日:1985/03/05
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