きゃりぱみゅの《もんだいガール》と「戦前ブルースしか聴けない病」

      2021/02/15

kyaripamyu

戦前ブルースしか聴けない病

このサイトに寄稿していただいている、奄美大島の「音のソムリエ」高良俊礼さんは、原稿の中で時折「戦前ブルースしか聴けない病」というフレーズを使われていますが、この気持ち、私もよーく分かります。

私も時々「戦前ブルースしか聴けない病」にかかることがあるので。

それは、だいたい夏に訪れることが多いですね。

スクラッチノイズとその遠く向こうから聞こえてくる力強い声とアコースティックギター。

当然、その時代に生きているわけもなく、しかも、ここはアメリカではなく、日本なのに、ものすごく懐かしい気分になってしまうんですね。

なんで?なんで?

……よく分からん。

そういう時の自分って、気持ちがダウナーになっていたり、精神状態がいささか病み気味なのかというと、そうでもないんですね。

肉体充実・左脳に働きかける

今、古いページから、こちらのアドレスのほうに、過去に書いた膨大なテキストを引っ越し中なんですが、その作業中に面白いことに気がつきました。

だいたい私が「戦前ブルースしか聴けない病」にかかっている時ほど、記事のアップ量が多いんですね。

つまり、むしろ精神的、肉体的にはハイなことの方が多いのですね。

戦前ブルースは、だいたいこの冬の季節だと、寝る前に読書をしながら聴いていることが多いのですが、「戦前ブルースしか聴けない病」にかかっている時は、ギラギラと太陽が照りつける真夏の7月や8月に、クーラーがギンギンに効いた場所でバリバリと仕事をしながら、その傍ら息抜きで書いていることが多いことに気がつきました。

戦前ブルースと一口に言っても、地域やブルースマンによっても、様々な表現スタイルがあるので、とても一括りには出来ないのですが、私が普段愛好している戦前ブルースは、ブラインド・ブレイク、ビッグ・ビル・ブルーンジー、それに女性だとメンフィス・ミニーといった、比較的リズムの骨格がしっかりとしていて、ノリの良いタイプが多いような気がします。

もう少し、これらのスタイルを洗練させてお化粧直しをすれば、ジャズのビッグバンドが奏でるようなサウンドにもなりそうな曲が多いような気がします。

こればかりを聴きたくなる時は、まだ比較的軽度の「戦前ブルースしか聴けない病」の時期です。

しかし、重度になってくると、もっとマッタリと重たくなってくる。

チャーリー・パットンにロバート・ジョンソン。

そして、ブラインド・レモン。

ザ・ベスト・オブ・ブラインド・レモン・ジェファスンザ・ベスト・オブ・ブラインド・レモン・ジェファスン

この3人の歌や演奏の共通点ってそんなに無いんですけど、強いていえば、時おり小節をはみだしたり、小節の長さが本人たちの「“尺”基準」で伸縮するところでしょうか。

共演者なしの「一人演奏」ですから、そういう表現スタイルになっているのかもしれませんが、とにかく彼らの時間感覚に身を委ねるのが、たまらなく心地よいのですね。

あと音色もあると思う。

スクラッチノイズに、お世辞にも良好とはいえない音質。

しかし、この音の佇まいが、私の左脳に様々な想像力をかきたてるのです。

クラプトンやモダンジャズのブルース

ロバート・ジョンソンやブラインド・レモンのブルースを何十曲か聴いた後に、これら素朴なブルースに比べると複雑な和声で奏でられるモダンジャズを聴くと、あるいは彼らブルースマンのことをリスペクトしているというエリック・クラプトンが演奏しているブルースを聴くと、未来の音楽に聞こえてしまいます。

特に、クラプトンがアンプラグドで演奏しているブルースなどは、形式的にはブルースには違いないんだけど、なんだかテカテカしたプラスティックで出来た最新型のイミテーションに聞こえてしまって、どうも昔から違和感のようなものを感じて、心の深いところからは馴染めません。

根っこがないところに無理矢理咲かせた花、つまりは造花のように感じてしまうのです。
精巧な造花ではあるんですけどね。

そして、クラプトンの歌もギターも素晴らしいんですけどね。

しかし、問題は演奏技術や表現力ではないんですね。

もっと根源的な深い生まれ育った土地の匂いとか空気とか、そういうルーツみたいな、音の底にドッシリと張っている根っこのようなものの有無の違いというか。

そうそう、お酒で言えば甘いカクテルを飲んでいる感じ?

おいしいカクテルもたくさんあるんですけど、私の場合は、どうも混ぜ物のない原酒のほうが好きみたい。

それも、香りや度数がキツいほうが好きなことが多い。

カクテルの洗練された味よりも、限りなくオリジナルに近い、力強く素朴なテイストを好むのかもしれません。

もちろん、すべての酒や音楽の好みがそうだというわけでもないのですし、じつは加工と編集されまくった音楽も大好きなのですが、だからこその反動なのかもしれませんね、時折、戦前ブルースばかりを一日中かけ続ける日々が続くのは。

きゃりぱみゅの《もんだいガール》

今現在の私は、残念ながら(?)「戦前ブルースしか聴けない病」にはかかっていません。

だって、さっきまでは、きゃりーぱみゅぱみゅの《もんだいガール》をヘヴィローテーションしてましたから(笑)。

現在放映中のドラマ『問題のあるレストラン』のテーマ曲ですね。

これ、今までのきゃりぱみゅの曲の中では、一番好きかも。

ゲーム音楽のような分かりやすいサウンドが、まず良いです。

それと、Bメロのコード進行とメロディでビビッとくるところがあり、サビに移行する箇所に、チラリと露わになるシンセベースの音色がヌルリと可愛いのもイイですね。

で、これを聴いた後に、ブラインドレモンを聴くと、「カ〜ッ!」と臓腑に染みてくる。

重労働をした後に、度数の高いウイスキーをストレートで一気飲みしたときのような感じ?

未来から現在に戻ってきて心がドスンと落ち着くような、そんな感じ?

なんか時代感覚がヘンな感じなんですが、そういう感覚も嫌いじゃないのです。

戦前ブルースから、きゃりーぱみゅぱみゅの《もんだいガール》のような21世紀のニッポンの流行歌まで、均等にチョイスすることが出来る環境に、今、自分は生きています。

本当に、何て素晴らしい時代と国に生まれ、このような恵まれた環境と生活を享受できているのだろうと感謝の気持ちでいっぱいな今日この頃なのです。

さっ、ロバート・ジョンソンの《32-20ブルース》を聴いた後は、AKB48の『ここがロドスだ、ここで跳べ!』を紐解いてみるか。

記:2015/02/23

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